※写真はイメージです

 警察の対応をあざ笑うかのように、ますます巧妙さを増している特殊詐欺。総被害額は年間350億円以上だが、ダマされたことにすら気づいていないケースも。詐欺・悪徳商法対策の第一人者に聞いた“引っかからない”手段とは──。

◆   ◆   ◆

 警察や金融機関による「振り込まないで」という呼びかけがあるにもかかわらず、一向に減らない『振り込め詐欺』。架空請求や還付金なども含めた特殊詐欺による被害総額はなんと年間約364億円にものぼる(警視庁統計・平成30年度)。しかも、これは警察に届けられた数字であり、実際の被害総額はさらに高いという。

「被害者の多くは、『知られたら恥ずかしい』『早く忘れてしまいたい』といった心理が働きます。10万円、20万円など比較的被害額が少ないと、その事実を隠して泣き寝入りするケースもあるんです」

 そう話すのは、社会心理学者で、詐欺・悪徳商法対策の第一人者である西田公昭さん。振り込め詐欺のニュースを耳にしても“なぜ息子の声がわからないの?”と首をかしげ“私は大丈夫”と思っている人は多いだろう。だが、その過信が危ない!

「例えば、誰かから電話がかかってきて“この人は詐欺師?”なんて疑わないですよね。彼らは最初、感じがよくていい人の仮面をかぶって近づいてきます。ときには警察や社会保険事務所の者ですと名乗ってきたりもする。それを見破ることは非常に難しい。

“まさか、あんないい人が”と被害に遭ってから驚く人も多い。ですので、ひとり暮らしの高齢者に限らず、しっかりした人でも、今までダマされた経験のない人でも、誰でも被害者になりうるのです

 それほど現在の詐欺の手口は巧妙になり、進化している。引っかからないためには、まずはその手口を知っておいてほしい。

登場人物2人でより巧妙に 【新オレオレ詐欺】

 振り込め詐欺の中でもっとも多いのが、オレオレ詐欺。息子になりきって「オレオレ」という単純な手法から進化した新バージョンが横行している。一例を紹介しよう。

 見知らぬ着信音からの電話に出ると「母さん、オレだけど」と。たたみかけるように「カバンを電車に忘れて、同僚に電話を借りてかけている。もし鉄道会社から忘れ物の電話がかかってきたら聞いておいて」と慌てた様子。しばらくすると「●●駅の落とし物係です。本人確認のため住所と電話番号、勤務先を」と聞かれ、母は息子の個人情報を伝える。

 10分後に息子から電話があり、カバンが見つかったことを息子に告げる。ところが、カバンを受け取った息子から再び連絡が入り、

「カバンの中から小切手が盗み取られていた! 今日じゅうに振り込まなきゃいけないお金なんだ! 母さん、300万円貸して!」

 と窮状を訴える。さらに

「いま仕事を抜けられないから同僚に取りにいってもらう」とも。母は息子を助けたい一心で、同僚と名乗る男にお金を渡してしまう。

「“息子が小切手を盗まれた! どうしよう……”と母親は不安になって、冷静な判断ができなくなります。不安や恐怖をあおるのは、犯人側の常套(じょうとう)手段なんです」(西田さん、以下同)