《5》「敵は本能寺にあり」とは言ってない!?
誰もが知るこの名台詞、実は、江戸後期の学者・頼山陽が著書『日本外史』に書いたものが、そのまま光秀の言葉として認識されるようになってしまった。つまり、創作された名言なのだ。
生年も定かではなく、織田家に仕える前の経歴もあまりよくわかっていない光秀。そもそも「本能寺の変」の謀反理由も、いまだに解明されていないわけで、それだけにイメージも膨らませやすく、創作向きの武将だったりする。
本能寺の変も、信長から頭のことを揶揄(やゆ)されていた私怨から……なんて説もあるけど、真偽は不明なのだ。
『麒麟がくる』にはこう期待したい!
“武士の家計簿”的な側面にも期待! 名脇役をどう主役として描くのか
描かれるテーマのひとつとして期待したいのは「お金の流れ」です。戦国時代は日本中が貧しい時代。少しでも富んでいる相手から奪おうとして戦も起きるわけです。戦争に勝つにはお金の力が必要ですから、初回でやたらとカネ勘定が早くて正確な光秀像が描かれていたのは納得です。
光秀は集金力の高さを買われ、織田信長に重用されました。織田家で集金ナンバー1が光秀、ナンバー2が秀吉です。銭ゲバ路線になりうる内容ですが、『武士の家計簿~戦国版』のようなホームドラマ路線の要素も含んでくるのではないかと思います。
また、戦国特有の“残酷さ”が描かれることも期待したい。というのも、初回では野盗の乱暴さや人さらいなども描かれていましたよね。当時は多くの労働力の確保のため、こういったことが横行していた。
大河がこれまで避けてきたような側面……言わば暗い側面のカムフラージュとして、カラフルな衣装なのではないかなと邪推してしまいます(笑)。
そもそも光秀は、戦国時代のドラマや映画には必ず出てくる名脇役。ですが、限定的な出番で、定番の描かれ方しかしてこなかった。
そんな光秀を主人公に据えた本作だからこそ、描ける戦国のリアルがあるわけで、どう転ぶかわからない今回の大河ドラマは楽しみですね。
(取材・文/我妻アヅ子)
ほりえ・ひろき 1977年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒。日本、世界、古代、近代を問わず、歴史の持つ面白さを現代的な視点、軽妙な筆致で取り上げている。近著は『愛と欲望の世界史 その情熱が、歴史を動かした』(三笠書房)。