サドル以外の収集グセ

 その後、容疑者は地元の中学校、私立高校を出たあと、やはり東京の鉄鋼関連会社に就職した。

「結婚する前に、元妻と一緒に、やつの会社の寮を訪ねたことがありましたが、東京で会ったのはそれが最初で最後でした。弟はその会社を1年ほどで辞めて専門学校へ行き、それから配膳関係の仕事をしたんですが、それもすぐに辞めて、以来32歳ぐらいまでは仕事を転々としていた」

 容疑者は実家に戻ってからはトラック運転手になり、サドル泥棒を始めたようだが、職場は次々と変えていた。

 7、8年前に容疑者は両親との同居を嫌がって、近所にアパートを借りて住んでいたが、家賃滞納のため、わずか2年ほどで舞い戻ってきたことも。

「とにかく人付き合いが下手なので、トラック運転手を選んだのは人と接する機会が少ないからだと思います。私が離婚して戻ってきてから18年ほど一緒に生活したのですが、やつは1週間に1、2日ぐらいしか家にいなかったので、ほとんど会話もしなかった。兄弟であっても、兄弟ではない感じだった

須田容疑者の勤務先から送られてきたブルーシートにくるまれた私物を案内する兄
須田容疑者の勤務先から送られてきたブルーシートにくるまれた私物を案内する兄
【写真】サドルが見つかった物置を案内する兄と、容疑者の幼少時代

 そんな性格でストレスをためやすいのか、容疑者は家庭内暴力(DV)を起こしたこともあるという。

「普段はおとなしくて優しいんですが、6年前に他界した母も小言を言うタイプだったので、たまにキレて、両親を殴ることもありました。私にもケンカをふっかけてきたこともあった。気が弱いくせに、ちょっかいを出してくるんです。“お前だって離婚してるじゃねーか”とかね。警察を呼んだことも2回あります。そのときは私が本気で殴ったら、それでたちまちシュンとしてしまって、それ以降は刃向かわなくなった。可愛いもんですよ

 ただ、以前から奇妙なクセがあることは気になっていたようだ。

「家で取っている新聞紙と、トラックや宝飾品の月刊誌を、自分の部屋に山のように積んであってね。ろくに読みもしないのに、捨てられないんです。そういう妙な収集グセが、今回の事件につながっているのかも……」

 広昭容疑者の逮捕から1週間ほどして、心労が蓄積したのか、91歳の父親が胃潰瘍からくる重度の貧血のため救急車で病院に搬送。

 兄は連日、そんな父親を見舞いながら、弟の将来を心配している。

「弁済できるものは弁済して、罪を償わせたい。それから、どのくらいの罪になるのか、弟が戻っても、仕事が見つかるのかがいちばん心配です。それでも、兄として精いっぱいサポートしていくつもりです」

 広昭容疑者に、手を差しのべようとする兄と病床の父親の切実な思いは届いているのだろうか─。