元『クレージーキャッツ』の犬塚弘さんは、大林監督の人柄について語る。
「普通の映画監督は威張って役者と距離があるけど、大林監督は地方ロケで夜の食事に誘ってくれたり、私の友人にも気楽に話しかけてくれて、とても気さくな方でした」
最後の撮影にも呼ばれていた。出演の経緯については、
「私は90歳だからと断ったら“映画館でボケ~ッとしている年寄りの役だから大丈夫。年は関係ないし、今回で引退宣言にしちゃえば?”と言われたから引き受けたんです」
監督の言うとおり楽な撮影だろうと思っていたら……。
「撮影所では3日間、長いセリフの撮影で缶詰状態。さらにはウッドベースが用意されていて“演奏して”と。でも、最後にミュージシャンとしての腕も披露できました。好きなバンド、演劇、そして90歳で映画にも出れた。91年の人生に悔いはありません。撮影後も毎月、電話をくれていたんですが……」
犬塚さんの引退の場を妥協せず作り上げたのも、監督の愛がなした業のひとつだろう。
「ピースサインの意味を知っている?」
2つ目は、“平和への愛”。前出の有村さんは、こんなエピソードを明かす。
「大林さんとツーショットを撮るときにピースサインをしたら、“アリコン君、それは違うよ。ピースサインの意味を知ってるかい?”と言われました。第二次世界大戦でイギリス・アメリカ連合国軍が原爆を落として日本に勝利したときにやった“ヴィクトリーサイン”なんだそうです。中指と薬指だけを折って作る“アイラブユー”の手話を教えていただいたことが印象に残っています」
過去の舞台挨拶などでも出演者たちはそろって“アイラブユー”のサインを披露。晩年は“大林的戦争三部作”と名づけた映画を撮影するなど、監督の作品には、いつも平和への思いが込められていた。
「遺作のテーマは“反戦”。監督は、戦争をやってはいけない、というメッセージを込めた映画を作りたがっていました。ただ撃ち合うだけのハリウッド映画や邦画でも一部の戦争モノは、監督も私も好きではなかった。監督は最後に戦闘シーンのない反戦映画を作り上げたんですよ」(石森さん)
父親の最後を見届けた、長女で映画作家の千茱萸さんは、
「最後のころは“映画を愛するみなさん、ありがとう。どうか僕の続きをやってね”と語っていました。きっと公開予定だった新作映画の舞台挨拶で、みなさんに感謝を伝えたかったのだと思います」
監督の平和への思いは、次の世代へとバトンが渡された。