夫婦の接点を断ち切った“オンライン飲み会”

 土日休みの萌子さんと平日休みの夫。お互いに休みが合わなくても、すれ違わないよう、朝食だけは一緒にとる。それは萌子さん夫婦の約束事でした。かろうじて夫婦としての形を保つことができたのは、萌子さんだけでなく夫も休日でも早起きをして、約束を守り続けてきたから。そんな夫婦の接点を断ち切ったのは“オンライン飲み会”でした。

 直接会えない人同士が、ビデオ会議システムなどを使って家でお酒を飲みながら会話をするのがオンライン飲み会です。夫は大学の友達、地元の旧友から誘われて参加したのですが、場所は自室。リアルの飲み会と違い、家の門限、店の閉店、電車の終電がないので、どんどん時間は遅くなり、酒の量は増え、記憶は薄れていきます。深酒の結果、夫が起床するのは翌日のお昼ごろで、萌子さんは寂しく1人で朝食を食べる日もありました。

 そのうち、キャバクラ店から有料のオンライン飲み会の誘いが届くように。キャバクラ嬢にそそのかされ、飲酒の量はますます増加。直近では500ミリリットルの缶ビール3本と2リットルのウイスキーを1本空けるようになり、ますます家飲みにハマっていったのです。4月の中旬になると夫が休日の朝に目を覚ますことはなくなり、萌子さんと同じ時間を共有することもなく、夫の存在は単なる同居人に成り下がろうとしていたのです。

感染予防をお願いすると「何様のつもりだよ!」

「最近、感染経路が分からない人が増えているみたい。だから外から帰ってきたら、ちゃんとしてね」

 都道府県は感染者の情報を公表しています。萌子さんはスマートフォンを開くたびに最新の情報を確認していました。感染経路が不明ということは誰がいつどこで感染してもおかしくない状況です。そのため、萌子さんは帰宅すると手を洗い、うがいをし、衣服を着替えるだけでなく、在宅中もマスクを着用していました。「夫にうつしてはいけない」と気を遣ったのですが、萌子さんは夫も同じだと──萌子さんにうつしてはいけないと思っていると信じていました。だから、夫にも同じことをしてほしいと頼んだのです。

「俺のことを馬鹿にしているだろ? 何様のつもりだよ、上から目線で気に入らない!!」

 長年連れ添った夫婦は空気のような存在。気持ちを伝えるのは恥ずかしくて素直になれないのは筆者もわかりますが、新型コロナウイルスという人生最大級の危機……しかも最悪の場合、命を失う危機に遭遇してなお、夫は強がり、意地を張り、強情に振る舞ったので、萌子さんは呆れ返ってしまったそう。

 さらに右手を前後に揺らし、「煙たい」のポーズをとり、「お前、感染しているんじゃないか? こっちに来るなよ!」と差別的な言葉を投げつけてきたので、萌子さんは言葉を失いました。在宅勤務で人と接しない夫より、病院勤務で人と接する萌子さんのほうが感染リスクが高いのは確かですが、あまりにも無神経です。

 筆者は「残念ながら、本質的に旦那さんはそういう人間なのでしょう。結婚前の優しかった時期は猫を被っていたのかもしれません。子どものころに形成された性格が大人になって変わるケースは少ないので」と助言しましたが、「私は親から『自分さえ良ければいいという考え方はいけないと教わりました。主人は違うみたいです。主人といると私まで自己中な人間になりそうで怖いんです!」と萌子さんは答えました。