パチンコを止める妻を“自粛警察”呼ばわり
「もしかしてパチンコに行ってきたの?」
3月中旬、タバコのにおいにまみれて帰宅した夫に対して萌子さんは疑いの目を向けたのです。「まだ営業しているところを見つけたから」とあっけらかんとする夫。
「あんたの行動はおかしくない? みんなが自粛しているのに! 他のお店は自粛しているんだから、そこのお店がおかしいのよ! 今、パチンコに行くなんて感染しに行くようなものでしょ? うちにウイルスを持ち込んで、私はどうなってもいいの?」
萌子さんは夫をとがめたのですが、夫は悪びれずに「自粛、自粛って何なんだよ? うつるかどうかなんて運だろ!? 俺はうつらない自信があるから(パチンコへ)行くんじゃないか。お前はクリニックへ行くけれど、こっちは(自宅待機で)息が詰まるんだよ。息抜きして何が悪い!」と反論。さらに「お前みたいなやつをなんて言うか知っているか? “自粛警察”だよ」と夫は小馬鹿にした感じで怒りをぶつけてきたのです。
「もう終わりだと思いました。コロナが落ち着いたら離婚しようと思っています」
萌子さんは涙声で言います。話を聞き終わった筆者は「旦那さんは萌子さんを都合のいい存在としか思っていなかったのでは」と言いました。生活費を多めに払い、家事を全部やり、余計なことを言わない妻だと萌子さんは自分で薄々、勘づいていたでしょう。コロナ危機で確信に変わったのですが、それだけではありません。
いつどこでウイルスに感染し、重症化し、命を落としてもおかしくない状況下です。筆者が「限られた人生をどのようにしたいですか?」と投げかけると萌子さんは「自分らしく生きたいです!」と言い、夫がいない人生……離婚を選択したのです。4月下旬、萌子さんが家庭裁判所から調停の申立書を取り寄せたのが、筆者の把握している萌子さんの近況です。
二人で話し合い結論を出せたら離婚は防げた
萌子さん夫婦は今まで辛うじて細い糸でつながっていました。しかし、コロナによってその糸を断ち切られた格好です。例年通りなら、致命的な傷を負わず、無理に離婚せず、のらりくらりと結婚生活を続けていたのでは。そう思うと萌子さんのケースは「コロナ離婚」だと言えるでしょう。
コロナ発生から夫婦間にさまざまな問題が起こりました。二人で話し合い、意見を言い、結論を出すことができたのなら最悪の結果に至らなかったでしょう。しかし、夫とは話が通じず、何を考えているか分からず、喧嘩してばかりでした。まだコロナウイルスは終息に至っておらず、今後も想像だにしなかった別の問題が次々と発生することが予想されます。新しい問題に直面したとき、萌子さんは夫が足手まといだと感じ、自分ひとりでやったほうがいいと思ったのです。
そして老若男女を問わず、コロナウイルスには死亡リスクがあります。感染経路が不明な患者が増えているので、もはや完全に安全な場所はなく、どこで感染してもおかしくありません。思わぬ形で命を落とす可能性があることを踏まえ、今後の人生をどのように過ごしたいのか、そして限りある人生で夫は最良のパートナーなのかを再考したとき、答えはノーだったのでしょう。
萌子さんのケースは決して他人事ではなく、現在の感染の広がりを考えれば、コロナ離婚の予備軍は多いでしょう。配偶者が暴走し、萌子さんと同じような場面に遭遇した場合、自分ならどうするのかを前もってシミュレーションしておくのが賢明です。
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/