辞めてくれるのを期待する経営者のずるさ
労働組合などに寄せられる解雇や雇い止めの問題。社会的支援を誰しもが利用できる権利があるが、それさえも頼れない、無責任きわまりないケースもある。
接骨院でパート勤務していた50代の山瀬智子さん(仮名)は、5月25日に解雇らしいことを伝えられた。
「接骨院は濃厚接触になり危険だから、完全予約制にして(院長)ひとりでやっていく。みなさん、それぞれお仕事を探してください、と言われたのですが、雇用調整助成金の申請も『うちでは難しくてできません』と拒まれました。解雇なんですか、と聞いても、はっきり言わない。
休業補償もしないで、なんとなく辞めてくれるのを期待するそのずるさが許せないんです。
5月2日に、緊急事態宣言が解除されないので、このまま自宅待機をお願いします、と言われていたんです。その時点で、保障もできないから解雇です、と言われたほうがよかった。なんとなく期待をもって待ってしまったので、余計にショックでした」
なじみの患者さんに別れの挨拶もできぬまま、2度と職場に戻ることはできなくなってしまった。
前出・『労働相談カフェ東京』の横川理事長は、
「大企業の方の相談は少数です。大企業は解雇するにしても、ちゃんと退職の募集をするなど手続きを踏んでいて、余力のあるうちにいい条件で辞めてもらったり、解雇を回避する努力をしている。
ところが、中小企業は手続きなんか完全に無視で、突然解雇されるなんてこともあります。それも巧妙に、アルバイトになるか辞めるか二者択一を迫ったり、地方に転勤するか辞めるかを選ばせたり、やり方がひどい。この人は訴えてこないと思われてしまう人は損をさせられている印象を受けます」
と、泣き寝入りにならない姿勢の大切さを訴える。
経営努力を放棄して従業員を使い捨てにする“コロナ解雇”をされないためにも、公的な支援制度や相談窓口の存在などに普段から気を配っておくしかない。