“罪悪感”から一部記憶を失った
音江さん(仮名)のケース

 あとになってから「聞かないでくれたほうがよかった」と感じた、という人もいました。

 音江さん(仮名)の両親は、彼女が小学生のときに離婚。それまで音江さんは父親に大変かわいがられていましたが、離婚原因が父の浮気であることを知っており、母親に同情していたそう。そのため「どっちについていく?」と聞かれたときは、「母親」と答えます。妹はまだ小さかったため何も聞かれず、姉妹は母親についていくことになりました。 

 その後、母親は再婚。音江さんは、母親の再婚相手や当時の生活について、楽しかった記憶しかなかったのですが、大人になってから妹と話をしたところ、当時、妹は継父からひどい虐待を受けていたことがわかりました。しかも、音江さん自身が、その事実を母親に知らせていたというのです。

 そう、音江さんは、妹が受けた虐待について、記憶を失っていました。それはおそらく、彼女が自分を責め過ぎたためのように思えます。音江さんは両親が離婚する際、自分が「父親についていく」と答えていれば、妹への虐待は起きなかったのに……、と思っていたのです。罪悪感が強すぎて、彼女は当時の記憶の多くを失ってしまったのではないでしょうか。

 もちろん実際には、音江さんが「母親についていく」と答えたことと、妹が継父から虐待を受けたことに、因果関係はありません。それでも子どもは、「自分のせいだ」と思うことによって、耐え難い出来事を呑み下そうとすることがあります。

 誰か周囲の大人が、「あなたのせいではない」と音江さんに教えてあげられたらよかったのですが。残念ながら当時、彼女の苦しみに気付く大人は、周りにいなかったのでした。

「自分で決めたいか?」
そこから聞いてみるのもアリ

 最近では「コロナ離婚」という言葉も聞かれます。離婚を考えたことがある人は、少なくないでしょう。もし実行に移す場合は、子どもの心の傷や負担を最小限にとどめるため、今回挙げたエピソードを参考にしてもらえたらと思います。

 大人が判断に迷ったときは、こういった注意点を子ども自身にも伝えたうえで、「自分で決めたいか? 親が決めたほうがいいか?」ということから聞いてみるのもいいかもしれません。

大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。出版社、編集プロダクションを経て、現在はノンフィクションライターとして活動。そのほか、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。多様な家族の形を見つめる著書『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本『オトナ婚です、わたしたち』(ともに太郎次郎社エディタス)など多数出版。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。