誰かのために自分ができることを

 現在では、その講座で学んだ医療関係者が、自らが所属する医療機関などを中心に各地で子ども対象のプログラムを開催している。

 子どもたちのためにはCLIMBプログラムとバタフライプログラムがある。CLIMBは、子どもたちが「がん」についてともに学び、親ががんになったことで抱えている感情を安心してシェアできる場を、数回にわたって提供する。バタフライでは、死が近いがん患者とその子どもの思い出づくりや伝え方、グリーフケアなどをともに考える。

大沢かおりさん 撮影/伊藤和幸
大沢かおりさん 撮影/伊藤和幸
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 母を乳がんで亡くして2年になる深澤美沙紀さん(22)にとっても、大沢さんやCLIMBプログラムは欠かせないものだった。

「12年近くにわたり、母も私も大沢さんにたくさん相談に乗っていただきました。母は最初、がんであることを私たちに隠していましたが、抗がん剤治療を始めるとき、当時、小学校5年生だった私と5歳だった妹に話してくれました。母ががんだということは友達にも話せませんでした。大沢さんは安心して話せる唯一の相手でした

 母のみゆきさんは、亡くなる直前までホープツリーの活動を手伝っていたという。

「母は大沢さんのことが大好きで、少しでも力になりたいって思っていたんじゃないかな。私がCLIMBプログラムに初めて参加したときも、“大沢さんに会えるよ”と母に誘われたから。“大沢さんに会えるなら行く!”と即答したのを覚えています」

 深澤さんは今年4月から保育士となり、福祉の現場に立つことになった。

「母ががんで治療中も、安心して自分の感情に向き合い、こうして夢を実現できたのは、大沢さんとの出会いやCLIMBプログラムの体験が大きい。これからは、大沢さんのように子どもたちのことを考え、寄り添い続け、力になれる保育士になりたい」

 大沢さんに支えられてきた多くの子どもたちが大沢さんの思いを受け継いで、新しい未来をつくりはじめている。たくさんのがん患者やその子どもたちをサポートしてきた大沢さんの周りには、力になりたいという人がいまも自然に集まってくる。

「大沢さんは、傷ついた人を見ると放っておけない。例え自分が傷ついても。彼女のその使命感は人を惹きつける求心力になっています。ホープツリーの広がりがそのことを証明している。同志として行けるところまで行こう! とエールを送りたいですね」(井上さん)

 誰かのために自分ができることを。このコロナの時代にこそ大切にしたいメッセージを、大沢さんの活動は私たちに訴えかけているのではないだろうか。


取材・文/太田美由紀(おおた・みゆき) 大阪府生まれ。ライター・編集者。育児、教育、福祉、医療など「生きる」を軸に、雑誌、書籍、テレビ番組などに関わる。初の著書『新しい時代の共生のカタチ─地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)好評発売中。