なぜ彼らはヒットしたのか
ここに挙げた3組のユニットは「夜」という点のほかにボカロプロデューサーが率いている、もしくはボカロプロデューサーと共作をしているなど、サウンド面でもボカロの影響を強く受けている点が共通している。
ニコニコ動画が音楽業界にもたらした恩恵はとても大きく、素人がカラオケ動画を投稿する「歌ってみた」ブームからはDAOKOやたなか(元ぼくのりりっくのぼうよみ)などの歌手を生み出した。また、ボカロの登場で作曲に挑戦する投稿者も増え、紅白にも出場した米津玄師など新世代の作曲家やシンガーも生まれている。この3組のユニットもその流れを継いでいるといっても過言ではない。
音声合成ソフトの強みを活かそうとすると、どうしても言葉を詰め込んだ疾走感のある曲が主流になる。その特徴的な曲展開はどのユニットでも確認でき、メロディーのアップダウンによる中毒性を持つ。その疾走感・中毒性が、TikTokなどの短い再生時間にもマッチし耳に残っていく。歌が上手いのはもちろんとして、決して明るいとはいえない歌詞が若者の共感を呼んでいるのも人気の理由だろう。
さらに、ストーリー性の強いアニメーションを用いたMV。表舞台に立ち、アーティスト像をブランディングしなくともミステリアスな存在のまま、曲そのものの世界観に没頭することができる。注目を集めるアニメーターとのコラボが多いのも若者が夢中になる理由のひとつだ。曲の持つ世界観を忠実に作り上げることができるアニメーションMVは音楽業界の新しい形になるかもしれない。
「夜」「ボカロ」「暗さ」「アニメーションMV」、こういったものがインターネット世代のアーティストが持つ“新しい魅力”として若者に受け入れられ、人気を集めているわけだ。
夜、眠ろうとしても目がさえてしまって眠れない。そんなときにこれらのユニットの曲が寄り添ってくれる。100万人以上の登録者数を誇るYoutubeの音楽チャンネル『THE FIRST TAKE』でもYOASOBIのボーカル・ikuraが『夜に駆ける』を披露した際には「皆の夜の時間に少しでも寄り添えたらいいなと思います」とメッセージを贈った。
多感な若者の心に彼女たちの歌声が響く。出歩きたくても夜に出歩けなかったコロナ禍。自粛解除になった今もクラブなどの盛り場はクローズを余儀なくされ、以前のような夜遊びができない。こんな時代だからこそ若者の心に寄り添ってくれる彼女たちの音楽を楽しみたいと思う。