子宮をボロボロにしながら産んだ食用卵
「鶏には本来、巣箱に隠れて卵を産みたい習性があります。ところが、日本の採卵養鶏場の92%が『バタリーケージ』といって、足元も横もすけすけの金網の上で卵を産ませています。伸びきった爪が金網に引っかかり、くちばしが割れ、隙間に挟まって死んだり、羽ばたこうとして骨が折れたりすることも日常茶飯事です」
NPO法人アニマルライツセンター代表理事の岡田千尋さんは眉を顰(ひそ)める。
さらに驚くことに、日本には飼育面積の最低基準がない。狭いところでは300平方センチメートル前後で1羽あたり、iPad1枚分だけ。8羽を無理やり詰め込んだケージでは鶏と鶏の間から顔を出すのがやっとという惨状だ(トップページの写真参照)。2018年、韓国ではEUと同じ1羽あたり750平方センチメートル以上を最低飼育面積として法制化。欧米、南アフリカ、メキシコ、ブラジル、タイをはじめ、世界ではケージ飼育をやめる『ケージフリー』の動きが強まっている。
アニマルウェルフェア(動物福祉)は“かわいそう”という感情論ではなく、動物行動学、生理学などに基づき、科学的根拠で論証されたもの。
例えば、27時間絶食させた鶏に巣箱と餌を選ばせると、巣箱に駆け寄るという実験結果もある。食欲より強い欲求や本能が奪われているのだ。
「鶏は自分で健康管理ができます。1日1万回以上地面をくちばしで突き、足で穴を掘り、ミネラルを含む土や虫を食べる。砂遊びでダニや寄生虫を落とし、太陽の光で殺菌する。自由に飛び回り、止まり木で眠るのが至福の時間です。一方、運動ができないケージ飼育の鶏は骨の厚みが3分の1。生後すぐに複数のワクチンが打たれ、月に1度、殺虫剤を身体に噴射されて何とか生き延びています」(岡田さん、以下同)
日本は卵の消費量がメキシコに続き、世界第2位。1人年間337個と言われる。
親鶏が育てられる数である年間20個を産むのが通常だが、採卵鶏は品種改良により約300個産んでいる。
「知人の獣医師が、屠殺(とさつ)される前の150羽ほどの採卵鶏(廃鶏)を解剖した際、約9割は卵巣か卵管に疾患があり、卵巣嚢腫(のうしゅ)の状態になったり、卵管に腺がんがあった鶏もいたそうです。子どもを毎日産み落とすわけですから」
欧米のスーパーの棚ではオーガニック、放牧卵が大半を占める。日本も数は少ないが、『平飼い』表記の卵を扱うところは増えてきたという。
「普段買う卵より値段が少し上がるかもしれませんが、日本人はそもそも卵を食べすぎています。数を減らして、6個入りの『平飼い』や『放牧』の卵に適正な対価を払うようになってほしいと思います」