“歌舞伎町のアマビエ”として
愛本店の現代表であり、現役のホストでもある壱さんもこう語る。
「僕は上京してから17年、ここの店にしか勤めたことがないので、いわばここが第2の故郷であり、愛田社長は東京のお父さんなんです。一流のホストになるために、いろんなことを教わった気がしますが、それは手取り足取りではなく、社長を見続けて覚えたのだと思います。ホストの魅力は、社長がこの店を文字通り自分で作り上げたように、自分自身で作り上げなくてはならない、と。
だからというか、社長の言葉で最も忘れられないのは、アドバイスでも教訓でもないんですよ。経営がゴタゴタしていたころ、ふとしたときに『壱ちゃん、ありがとうね』と言われたことです。たいして力にもなれていない、こんな僕に感謝してくれてるんだ、って」
愛田イズムという精神は受け継ぐことができても、物理的な建物の寿命にはあがなえない。
新店舗での営業開始が目前となった今、壱さんに決意を聞いた。
「『愛田社長=愛本店』ではありましたが、社長が亡くなった後は、僕たちも努力をして、新しい試みをいろいろ取り入れてきたんですね。海外のお客さまを積極的に受け入れられるように従業員たちが外国語を学ぶようにしたり、昼間にダンスホールを開放したり、内装のゴージャスさを売りにした、通常営業以外の各種イベントを開催したりもしました。おおむね好評をいただいていて、新店舗でも何かしらの試みをしていきたいと思っています。
愛本店がいつまでも愛されることが、社長の一番の供養だと思いますので。店内のシャンデリアや飾り棚、置物などの装飾品は、できる限り新店舗に運んで配置する予定です。ただ、一抹の心配は、内装をどこまで再現できるか、なんですけど(笑)」
歌舞伎町に愛され、歌舞伎町を愛した愛田さん。今回のコロナ騒動には、草葉の陰で心配をしているに違いない。“歌舞伎町のアマビエ”として、ホストたちの力になってくれることを祈りたい――。
撮影/山田智絵