監督も社長も
やっていることは同じ
さて、ご多分に漏れず『世界の山ちゃん』も新型コロナウイルスに翻弄された。
自粛勧告を受けての休業で、売り上げは前年比で9割減。だが、休業中も給与は全額を補償、社員の生活を守った。レギュラー以外を切ることができなかった監督に、現場を犠牲にすることなど、できるはずもなかった。
「お店がいいときは、社員さんアルバイトさんにやってもらっているばかり。苦しいときこそ、先代が残してくれたお金を使って生活を守っていってあげないと」
休業中は社員有志とマスク作りに励み、2200枚の手作りマスクをNPOに寄贈したという。
母親としての役割も、もちろん続行中である。
「5時か5時半にはお弁当作って、6時半には家族みんなで朝ご飯を食べています。家族全員が顔を合わせる時間が少なくて。早い子に合わせれば、朝なら確実に顔を合わせることができますから。お弁当も作りますよ。上の2人が高校生だったときには、がっつり系とダイエット系、2種類のお弁当を作っていました(笑)」
前出・横井さんも意外な素顔を証言する。
「実は結構“乙女”(笑)です。仕事を離れると、方向音痴で忘れ物が多かったり。一緒に歩いていていなくなったと思ったら、買い物をしていた(笑)。仕事を離れると、“かわいい女の子”なところがありますね」
親友の半谷さんが、こんな“かわいい女の子”の頼もしい一面を証言する。
「ご主人の生前に、こんなことを言っているのを聞いたことがありますね。“監督と会社の社長って、やっていることは同じだよね”って」
バスケの選手からクラブチームの名監督、そして経営者に母とさまざまに立場を変えた久美さん。だが、やっていることは今も昔も変わらない。人を引っ張り、バラバラにならないようつなげていくキャプテンであり、選手を鼓舞する監督としての役割だ。
さて、こんな久美さんを、天国の重雄さんが見たらなんと言うだろう─?
「今の私を、ですか? う~ん、“子どもの面倒ちゃんと見てる?”って言うと思います(笑)」
わが子はもちろん、従業員も、わが子同然。そんなわが子たちの面倒を見ていく経営は、これからが本番─!
撮影/渡邉智裕
取材・文/千羽ひとみ(せんばひとみ)ライター。神奈川県出身。企業広告のコピーライティング経験を経て、ドキュメントから料理関係、実用まで幅広い分野を手がける。著書に『ダイバーシティとマーケティング』『幸せ企業のひみつ』(共に共著)