選手としてのこれからと結婚観
ライバルのアメリカには、剛速球投手のモニカ・アボット選手(35)と、変化球投手のキャット・オスターマン選手(37)を筆頭に、多彩な特徴を持ったピッチャーが何人もいる。彼女らに投げ勝つためにも、さらなるスケールアップをする必要がある。
「自分の課題は、よく打たれている気がする左バッターをどれだけ抑えられるか。世界的には左バッターのほうが多いので、打たれる確率も上がるのはありますけど、そこでしっかり抑えることが最大のポイントでしょうね。
チームとしてはどれだけ点を取れるか。自分を含めて今の日本ピッチャー陣を考えると、ゼロで抑えるのは難しいと思うので、点を取らなければ金メダルには手が届かないのかな。
でもアメリカとは実力的には互角だし、ガチの勝負になってくる。決して勝てない相手じゃないと思いますよ」
12年前の決勝アメリカ戦と同じように、堂々とマウンドで投げ切った上野選手が歓喜のガッツポーズを見せてくれれば、まさに理想的なシナリオだ。母・京都さんは心からそう願っている。
「今までずっと頑張ってきて、今もまた頑張り続けている娘に私が言えることはありませんが、娘が自分らしく生きていくことを応援していますし、信じています。本当は“身体を大事にして”と、言いたいですけど、やはり“頑張って”としか言えないですね」
そして恩人・麗華監督は、7月22日に開かれた代表ユニフォーム発表会見で、少し厳しい言葉を交えつつエールを送った。
「今の上野はすごく調子がいいです。ただ、来年7月21日に決まった豪州との開幕戦ピッチャーにするとは断言できません。先発は1週間前じゃないと決められないし、現時点では上野はないと思います。だけど、1年あれば私の考えも相当に変化するでしょう。上野とはこれからもコミュニケーションをとりながら、成長を促していければと思います」
上野選手は、力強くバックアップしてくれる人たちに恩返しをした先には何が待っているのだろうか……。
「ゴールは(選手を)辞めるときでしょうけど、それは突然、来ると思う。すべて流れに身を任せます」
まだハッキリした未来は、見えていない。53歳で現役を続けるサッカー界のレジェンド、・三浦知良選手のように投げ続けるかもしれないし、キッパリ辞めて電撃結婚する可能性もあるかもしれない。
「今は考えられないし、余裕もないけど、自分を“普通の上野由岐子”と見てくれる男性が好きですね。いつか必要なタイミングで必要な人と出会う……。そういう運命だと信じて生きていきます」
笑顔で語る彼女にとっては、東京五輪で大輪の花を咲かせることが先決だ。
来年の夏、39歳になった日本の大エースが勇敢に戦う姿を楽しみに待ちたい。
取材・文/元川悦子(もとかわえつこ)1967年、長野県松本市生まれ。サッカーを中心としたスポーツ取材を主に手がけており、ワールドカップは'94 年アメリカ大会から'14 年ブラジル大会まで6回連続で現地取材。著書に『黄金世代』(スキージャーナル社)、『僕らがサッカーボーイズだった頃1〜4』(カンゼン)、『勝利の街に響け凱歌、松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか。