社会にも大きな衝撃を与えたこの事件。“所在不明児”がピックアップされるようになり、社会問題にもなった。そして、この事件は佐々木さんが刑事をやめるきっかけのひとつになったという。
埼玉県警を退職してから、その知識や経験を活かしてメディアでコメンテーターを務めたり、セミナーを開催するなどの活動をスタート。犯罪を取り締まることではなく、犯罪を防ぐことを世の中へ伝えている。
子どもには
「多くの判断力や想像力を」
「見えているものだけで判断してしまう人が多いですが、真実には奥行きがあって、気づくか気づかないかでは大きな差がある。それを子どもだけじゃなく、大人にも伝えていきたいと思っています。教育とはなんだろうと考えたとき、親の領域の中で育てるのがいいことなのでしょうか?
僕も長男が中学生くらいのときに、手を出してしまったことがあります。そのとき“いつも児童虐待反対とか言ってるくせに、やってることが違うじゃないかよ!”と言い返され、あっという間に論破されてしまいました。
でも、そういう自分の意思を伝えられたことは褒めてあげたいなと思ったんです。大人から何を言われてもそのとおりにするのではなく、子どもがちゃんと意思を伝えられるという環境も必要。今回の事件でも、もし少年が母親に自分の意思を伝えられる関係性が築けていれば、ここまで最悪な事態にはならなかったかもしれません」
また、佐々木さんは講演活動をする中で、子どもたちにいつも投げかける質問があるという。
「近くにコンビニがあります。あなたはとてもお腹が減っていますが、お金はありません。何をやっても構いません、さてどうやって解決しますか?」
今あなたの中には、どんな答えが浮かんだだろうか。
「いろいろな答えはありますが、ここでは食べないという答えも正解だと教えています。空腹を我慢することです。残念ながら、今この質問を子どもにすると返ってくる答えでいちばん多いのは“万引きする”なんですよ。それじゃ逮捕だよと言ったら、何をやっても構わないと言ったのに逮捕はずるい! という子どもがいますが(笑)。
何をやっても構わないと言われたとしても万引きは犯罪。犯罪を犯していいはずがありませんよね。その問題の先を想像する力があれば、万引きなんて答えは見つからないはず。子どもたちはもっと選択肢を持つべき、そして大人たちは、多くの判断力や想像力を教えてあげるべきだと思いました。
例えば赤点をとったとしても、“そこからどうするか”というその先のことを考える想像力が重要。失敗は絶対に大事だから、そのときにどう立ち上がるのか、どんどんチャレンジして失敗させて、大人はそれを手助けするのではなく、立ち上がり方を見守ることが大切だと思っています」
“親の先入観や決めつけで抑え込まないで”と佐々木さん。
「親の先入観って、結構ブレてることも多いので(笑)。いい大学に行って、いいところに就職する、それが正解ではありません。いつか子どもは親元から離れる。むしろ離れてからのほうが長いですから。
子どもは親の背中を見て育ちます。僕は、自分の環境にあった子育てを親が悩みながら見つけることが大事だと思いますね」
<埼玉県・川口市 祖父母殺害事件とは>
2014年、埼玉県川口市で当時17歳だった少年が、母方の祖父母を殺害。少年は「
佐々木成三(ささき・なるみ)
1976年11月13日生まれ。一般社団法人スクールポリス理事。基埼玉県警察本部刑事部捜査第一課の警部補。巡査部長5年、警部補5年の計10年間を勤務。著書に『「刑事力」コミュニケーション 優位に立てる20の術』(小学館)、『あなたとあなたの大切な人を守る捜査一課式防犯BOOK』(アスコム)。
<作品紹介>
映画『MOTHER マザー』(全国公開中)
出演/長澤まさみ、阿部サダヲ、奥平大兼ほか
(C)2020『MOTHER』製作委員会
<取材・文/高橋もも子>