「今年のお盆は帰らないですんでホッとしました。不謹慎かもしれないけど、妹と顔を合わせるのは、私にとってコロナ並みにきついので」
そう話すのは、都内で団体職員として働く40代女性。コロナ対策との口実で、東京から特急で2時間の場所にある実家への帰省を“自粛”した。母親から『オンライン帰省』してはどうか? とも言われたが、やんわりと断った。
「オンライン帰省の段取りを長女の私にやらせようって魂胆ですよ。家の手伝いも、夫婦ゲンカの仲裁も、昔から面倒なことは私にばかり押しつけてきたんです。勉強のプレッシャーもすごかったのに、なぜか3つ下の妹は野放し。のびのび育って、社交的で甘え上手。そんな妹と比べては落ち込んで、みじめな気持ちになってしまうんです」
“自分は劣っているダメな人間だ”と思う
この女性のように、きょうだいとの関係に、言い知れぬ息苦しさや葛藤を抱えている人たちは少なくない。
「幼いころから母に、優等生の姉と常に比較されてきました。姉は学区内でいちばん出来のいい高校、私は2番手だったので“お姉ちゃんは名門校なのに”と言われ続けたんです。ところが、大学になると私が国立、姉が公立で立場が逆転。にもかかわらず、母に合格を報告すると“お姉ちゃんがひがむから露骨に喜ぶな”って……」(60代女性)
「母は妹ばかり気にかけていて、私にはやさしくない。同じことをしても、妹だけが褒められているみたいに感じます」(40代女性)
同じ境遇で育った肉親に対する嫉妬や劣等感、モヤモヤした割り切れない感情──、こうしたきょうだいに感じるコンプレックスは、文字どおり「きょうだいコンプレックス」と呼ばれるものだ。
新潟青陵大学大学院教授で社会心理学者の碓井真史さんは、次のように話す。
「きょうだいコンプレックスを心理学の専門用語で『きょうだい間葛藤』『同胞葛藤』と言いますが、これは単純に“嫌い”ということではありません。ほかのきょうだいのほうが親に愛されているのではないかと感じ、“自分は劣っているダメな人間だ”と思う。その気持ちがきょうだいゆえに割り切れず、ときには相手に激しい憎しみを抱く、複雑な感情です」
きょうだいコンプレックスをこじらせたまま、大人になってからも苦しむ人がいる。
「きょうだいへのコンプレックスをごまかしたまま成長すると、親の介護、遺産相続などの問題でもめることにつながり、骨肉の争いを生んでしまう原因にもなります」