自分よりも立場の弱い人にしか攻撃しない
トラブルや怖い目にあったり、不安を感じ、使用を躊躇(ちゅうちょ)する女性も少なくない。しかし、被害を訴えにくい現状もある。というのも妊婦が被害を訴えると、逆に批判の的となることもあるからだ。
「“妊婦だからって偉そうに”などと反論されることや、被害者が“悪い”とさえ言われることもあります」
境野さんがSNSに事件のことを投稿すると「ブスには譲る席なんてねえよ」というメッセージが届いた。誹謗中傷もされ“ウソをつくな”とも言われたと明かす。
「最初は妊娠していることへのねたみや嫉妬かと思っていたんです」(境野さん)
“妊娠=幸せ”と受け取る人がいると考えていたが、被害はいつも1人で移動しているとき。夫が一緒のときに被害に遭ったことはなかった。
「赤ちゃんを連れた男性や祖父母らが被害に遭ったという話は聞きません」
そう話す平本さんは妊娠中ではなく、ベビーカーに子どもを乗せて通勤中に暴言を吐かれ、駅ビルでは殴りかかられそうになったことがある。
「夫がベビーカーで子どもを連れ、通勤していたときには私のようなトラブルには遭いませんでした」(以下、同)
また、加害者には若い男性もいれば、年配の女性もいた。共通するのは自分よりも立場の弱い人にしか攻撃しないこと。加害者は卑怯な小心者たちなのだ。
「加害者も職場や家庭などで尊重されていないかもしれません。特定の誰かを憎んでいるのではなく、無関心や無理解が積み重なったことが原因ではないでしょうか。それが妊婦や子連れへの暴力行為や存在を尊重しないような言動へとつながっていると思っています」
どれだけの女性が悲しい思いを胸にしまってきたのか。被害が明らかにされているのは氷山の一角にすぎない。
妊婦に危害を加える人物がゼロになるにはまだまだ時間がかかる。平本さんは訴える。
「すべての人に子どもや女性を助け、共感を促すことの強制はできません。ですが、否定せずに受け入れることはできると思います。どんな立場の人も尊重し合って、共存できる社会になればいいと思います。そして子どもや母親が傷つけられない社会になることを願います」