祇園が海外資本に買い占められる?
京阪本線「祇園四条」駅で降り、地上へ出る。「こ、ここが本当に、あの祇園なのか……」。思わず立ち尽くし、息をのむ。本来ならば祇園は夏休みの観光客でごった返しているはず。しかし、歩く人の姿はまばらだ。まるで財政破綻した街にいるような気分。
取材を進めるうち、猛暑が訪れる前に肉料理店をたたんだ元・店長に話を聞くことができた。祇園に残存する町家を改装したおしゃれなバルで、昨年秋にオープンした。残念ながら1年を待たず撤退。閉店のあいさつ文など軒先に掲示することなく、ひっそりと幕をおろした。
「4月に祇園祭の山鉾巡行を中止すると発表され、新型コロナウイルスの収束を諦めたグループのオーナーが即決しました。閉店といっても賃貸借契約はまだ残っています。なので、しばらく家賃は払い続けるようです。町家は管理費と維持費が高額なので『家賃を払ってでも閉店したほうが安い』、そんな判断でした」(元・店長)
元・店長はさらに、契約終了後の物件を「日本には新たに借りる人がいないのでは」と心配する。
「秋以降に第2波? 第3波? とにかく次の波が襲来すると言われていますしね。そうすれば物件を手放すオーナーは増えるでしょう。そして日本に住む人は新たに手を出さないでしょう。祇園には今後、続々と海外資本が入ってくると思います」(元・店長)
そもそも2020年の今夏は東京オリンピック・パラリンピックが開催される予定だった。それにともない京都市内は、オリンピック観戦と京都観光をセットでめぐる旅行者を当て込む外資系ホテルの開業準備が同時多発していた。新型コロナウイルス禍により1年の猶予ができたおかげで、外資系による「京都買い」はいっそう拍車がかかるのでは、そう彼は予想する。1年後の祇園の風景は大きく変わっているのかもしれない。
「お客さんを連れてきて」と店長から泣きのメールが
祇園は高級クラブなどナイト営業の接客店が多いのも特徴。新刊『京大生ホステスが教えます。99%の男がしていない恋愛の超基本』(SBクリエイティブ)を上梓した現役京大生のクラブホステス、灯諸(とうもろ)こしきさんは、まさに新型コロナウイルス禍の渦中にいたひとり。
「3月にはもう、どこのテーブルでも新型コロナウイルスの話題ばかりでした。特に志村けんさんがお亡くなりになって以降は『他人事ではない』という雰囲気になっていました」(灯諸こしき)
灯諸さんは、感染により重篤化する危険性をはらんだ家族がいるため、京都が特定警戒都道府県に指定される以前にクラブへの通勤を休んでいる。休んでいる間、店のグループLINEに入ってくる予約状況がどんどん悪化してゆくのを恐々として眺めていたという。
「緊急事態宣言にともなう休業要請が解除され、クラブ各店舗の営業が再開した6月ごろに、過去に勤めていたクラブの店長から1通のメールが届きました。それは『時給制ではなく売上折半制にするから客を連れてきてくれないか』と、経営難を感じさせる内容でした」(灯諸こしき)
どの店も「耐えている」状況なのだ。ドミノ倒しのように連鎖しなければよいのだが。
京都の人気YouTuberも祇園の危機を感じていた
男性でありながら舞妓はんのコスプレをし、祇園はもちろん京都中の有名スポットや穴場を紹介している人気YouTuber「コタツは~~ん!!!」。彼もまた、救いを求める声を耳にしたという。
「祇園で働く若い人たちから『うちの店がつぶれそうなんです。ロケをしに来てください。助けに来てください』というメールを何通もいただきました。祇園は幾度もロケをさせてくれた街で、大好きなんです。それだけに、今の祇園の人通りの少なさが、僕にはとてもつらいんです」(コタツは~~ん!!!)
自らカメラを担いで街をめぐるYouTuberだからこそ、リアルに祇園の惨状を肌で感じ、胸が痛むのだろう。