一方、「新しい生活様式」の定着により、需要回復が限定的になる懸念もある。
同じJR東海の管内でも、名古屋近郊の在来線は新幹線とは状況が異なっていた。自動改札機の集計に基づく乗車人員のデータによると、名古屋近郊の在来線では4月、5月の実績が前年比4割前後で、6月、7月には7割弱にまで増えている。
同じ期間、東海道新幹線の輸送量は4月、5月が前年比1割にまで落ち込み、6月、7月になっても約3割にとどまっているので、圧倒的に東海道新幹線の影響が大きかったことがわかる。
新幹線は県をまたぐ移動になるため、在来線よりも利用が抑制されやすい。それだけでなく、新幹線と在来線では利用者の構成も異なる。
カギを握るビジネスマン
パーソナル研究所が実施した「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」では、職種別のテレワーク実施率(4月10日~12日 正社員 サンプル数:22,477)が調査されている。
それによると、従業員のテレワーク実施率が低かった職種は、福祉系専門職(介護士・ヘルパーなど)、ドライバー、軽作業、製造(組立・加工)が5%以下で、それに建築・土木系技術職(職人・現場作業員)、【飲食】接客・サービス系職種、理美容師などが続く。
当然ながらテレワークが不可能な職種は多く、そのため在来線の需要は底堅い。
反対にテレワーク実施率が高い職種は、WEBクリエイティブ職、コンサルタント、企画・マーケティング、IT系技術職、広告・宣伝・編集と続いており、これらの職種では5割を超えている。営業職(法人向け営業)ですら47.8%と高く、オフィスワーカーだけでなく、客先(法人)を訪問する職種でもテレワークは進んでいる。
東海道新幹線を利用している客層はどこにあるのか?
2015年に実施された調査によると、東海道新幹線の利用目的は、出張・ビジネス、単身赴任の合計が74.1%で、観光旅行、趣味、帰省の合計が22.4%という割合だった。圧倒的にビジネス利用が多いのだ。
どのようなビジネスマンが利用しているかと言えば、テレワーク実施率が高いオフィスワーカーや客先(法人)訪問する人たちだろう。つまり、これまで新幹線を利用していた人たちが、テレワークに移行しているのだ。
JR東海は、ドル箱の東海道新幹線によって成り立っている。その同社が、第一四半期(4~6月)に836億円の営業損失を出したのだ。今年度の業績予想は、「未確定な要素が多く、現時点で算定が困難」として公表していない。
鉄道業界の動向は社会への影響が大きい。今後の数字に注目する必要がある。
文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『明暗分かれる鉄道ビジネス』『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』などがある。また、自身のサイト『鉄道業界の舞台裏』も運営している。