“総長”としての自分に足りなかったもの
原田 いろんな師匠の落語を見ても、瀧川鯉昇師匠以外に考えられなかった?
瀧川 考えられなかったですね。初めて師匠の落語を聞いたとき、落語を愛して、大事にしている気持ちが伝わってきたんです。そして何より、18歳の若造をひとりの人間として扱ってくれたのは、今も心に残っています。
原田 芸の素晴らしさと、人間性に惚れたんですね。
瀧川 そうですね。だって、僕がヤンキーだったころは大人はみんなまともに話を聞いてくれませんでしたからね。でも、師匠はしっかり向き合ってくれて、本当にうれしかった。東京のお父さんです。
原田 ちなみに、師匠ははみ出した経験は?
瀧川 師匠は不良ではないですね。ただ……酒絡みでは、よくはみ出してます(笑)。
原田 なるほど(笑)。でも、分け隔てなく人に接するのは難しいですよね。器の大きさを感じます。
瀧川 うちの師匠は、僕の個性を尊重してくれるんです。僕が真打になるときに、師匠は「弟子には全員、個性がある。僕は個性を大切にして育てるから、お前に合った落語の表現を教えてきたんだよ」と師匠が話してくれました。
僕は昔、信頼と思いやりを持って仲間とつるんではいましたが、“人を育てる”ことはできていなかったな、と師匠の言葉で思い知らされましたね。人としてすごいです。
原田 鯉斗さん自身も、いろんな修羅場をくぐり抜けてきたから、人を見る目は厳しいと思います。運命の出会いだったんですね。
瀧川 本当に僕みたいなやつが弟子になったら大変ですよ。違う師匠に弟子入りしていたら前座でやめて故郷に帰っていたと思います。「待ってたぞ!」と言わんばかりに、友達から僕の名前が書かれたヘルメットを渡される、そんな未来が見えます(笑)。
原田 そうだよね(笑)。人との出会いは人生を左右しますよ。個性を大切にして、これからも輝いてください!
瀧川 ありがとうございます!
【本日の、反省】暴走族の元総長、という強烈な個性を持っている落語家は、これからの時代、特に貴重ですよね。いろいろな経験をしているので、落語にも説得力があるだろうし、バックボーンを知っているほうが彼の高座を楽しめる気がします。一方で、師匠に出会っていなければ命を落としていたかもしれない世界にいたのはたしかです。瀧川鯉昇師匠と鯉斗さんは、出会うべくして出会ったふたりなのかも。今度、彼の落語を聞いてみたいです!
《取材・文/大貫未来(清談社)》