樹木希林さんは
夫からの離婚届を“無効”に
もちろん、「結婚はしているけれど、もう自由に生きましょう、お互いに」という決別かもしれない。また、愛情がすっからかんに枯渇したけれど、離婚するメリットよりも継続するメリットのほうが大きいという覚悟かもしれない。
現に佐々木はママタレとしての株を上げ、仲間も貫録を身に着けてドラマで大活躍している。仲間の夫の田中哲司も、一時期は自粛していたせいかドラマに出ていなかったが、徐々にドラマ復帰。本来の持ち味である狂気の演技を存分に発揮している。
特に、金子恵美はメリットを最大限に生かしていると思われる。議員ではなくなった夫婦は、不倫で話題になったことを機に、テレビに出まくった。タレント活動も展開。10月には不倫夫の顛末を書いた『許すチカラ』(集英社)という本を出版するらしい。離婚しなかったからこそ得られる利ザヤ(※買値と売値の差のこと。買値より売値が高い状態のことをいう)をきちんと計算していて、たくましいというか末恐ろしいというか。いや、賞賛しますよ、マジで。ちょっとだけ読んでみたいと思っている。
そういえば、保存法を選んだレジェンドもいた。2018年に他界した樹木希林さんである。1973年にミュージシャンの内田裕也さんと電撃結婚。ところが2年後には別居し、その後、長女を出産。1981年に内田さんは一方的に離婚届を提出するも、樹木さんは無効を主張し、裁判で勝訴している。
内田さんの場合は不倫だけに収まらない蛮行が多すぎるのだが、結局このふたりは離婚しなかった。樹木さんが亡くなった半年後に、内田さんも息を引き取った。深い愛憎と呼ぶべきか、最高の復讐と呼ぶべきか。俳優としての功績はもちろんのこと、器のデカさと筋を通した信念は、芸能史だけでなく人々の心に深く刻まれたと思う。
別れる美学もあれば、別れない美学もある。決断には計り知れない苦悩もあるだろうし、報道されない真実もある。そこには正解もなければ、模範解答もない。不倫報道に思いを寄せすぎて過熱するのが世の常だが、「妻の決断が最善」と思うことにしている。
吉田 潮(よしだ・うしお)
1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか』(KKベストセラーズ)などがある。