死ぬまで題材には困らない
すべての部品に存在理由がある精密機械に魅力を感じる一方で、鈴木さんが追い続けているヤクザという存在は、ひと言で説明がつくものではない。
「覚せい剤密売団のボスに『カネが貯まったら何をしたいですか?』と聞くと、発展途上国に病院を造りたいとか言うわけ。人間は悪にまみれていても善を希求したりするわけで、それが人間のダイナミックさなんですよね。暴力団を取材すると、たびたびそういう矛盾に遭遇します。自分のなかにも矛盾はたくさんあるし、一生かけてもその矛盾が解決することはないんでしょうね」
鈴木さんが尊敬するノンフィクション作家に溝口敦さんがいる。食肉の世界で暗躍した人物に肉迫した『食肉の帝王』などで知られる人物だ。
溝口さんから、「道窮まりて、王道に至る」と書かれた色紙をもらった鈴木さんは、それを仕事部屋に飾っている。
「要するに、山はどこから登っても頂上につくということなんです。で、昔のヤクザはしのぎ(収入を得るための手段)がはっきりしていたけど、表立ってしのぎができにくくなっているいま、密漁をやっているのもいれば、街で売春の斡旋(あっせん)をやっているのも、スニーカーを売っているヤクザもいる。多いのは投資ですね。ほんと、ヤクザは社会のあらゆるところとつながっています。
みんなはヤクザと聞くと後ずさるけれど、俺は暴力団取材をしてきたから、経験を活(い)かしてほかの世界に切り込んでいけば死ぬまで題材には困らない。『ヤクザ』というどこでもドアがあって、俺だけがそのドアを開けられると思ったりします」
わからないことをわかりたくて、長い時間を取材に費やしてきた。
「それでも、俺が子どものころから知りたいと思っていたことは、ひとつもわかっていないんです。例えば、死んだらどうなるか、とかね。ほかにもわからないことがたくさんあって、大半の人はわからないことをわかったふりをしてるだけということもわかってきた。でも、わからないことを考え続けなければならないということも、最近わかってきて」
この“知りたい欲”が衰えない限り、鈴木さんは現地に足を運び、見て、聞いて、自分にしかつかめない情報を追い続ける。
(取材・文/山脇麻生)