車道ルールになって事故件数は減ったのか?
2019年の自転車関連事故の件数は、8万473件。この数字は、道交法が改正された翌年の2009年から毎年、減少傾向にある。
’05年には18万件以上の自転車事故があったのだから、目に見えて少なくなっていると言えるだろう。
自転車事故の研究を続ける自転車総合研究所の工学博士・古倉宗治さん(70)は「私は自転車の車道通行推進派です」と前置きしたうえで、こう言う。
「自転車の事故の相手は80%以上が自動車で、2018年のデータでは、事故発生現場の約71%が交差点、歩道が約10%、車道で約8%です。この数字だけを見ると、自動車との事故件数に関しては歩道と車道の事故で大差はないように思われます。ですが、交差点で起きる事故の多くは、歩道を走行してきた自転車が交差点で車道に飛び出し、車とぶつかるケースだと考えられます」
実は、車道を走る自転車は、かなり遠くからでも車のドライバーに認知されている。だが、歩道を走る自転車は「死角」になることが多く、交差点や店の駐車場出入り口など出合い頭で「急に現れる」という認知の遅れが生じているのだ。
「車道を走る車から左側の歩道を走る自転車はほとんど見えません。そのため、交差点で左折しようとした瞬間に突然、歩道から現れた自転車を巻き込む事故につながるのです。また、コンビニの駐車場や脇道から出てくる車と歩道を走行していた自転車がぶつかるケースも多く見られます。これも自転車が車道を走っていれば、防げる事故です」
左側通行のルールを無視した「右側走行(=逆走)」の自転車事故も多発している、と古倉さん。
「これはルール違反どころか最大の道交法違反です。車道の左側走行をする場合と比較して、逆走は脇道から出てくる車との事故発生率が極めて高い割合になるという研究結果もあります。裏道などで安易に右側通行する人がいますが、これも交差点で車から死角になりやすいので絶対やめてほしい」
古倉さんは「歩道のほうが『安心』という心理」には、根拠のない車道への恐れがあると指摘する。
「車道を危険と感じる人の多くは“車との間隔の近さ”に不安を抱いています。ですが、自動車安全運転センターの’08年の調査によると、『自転車を追い越す場合、空間を十分確保しますか?』というアンケートで95%のドライバーは、『確保する』と回答しています。
歩道は『安心』のイメージがありますが、事故件数からみると、実際は車道の左側を走るほうが『安全』だと言えるでしょう」
歩道通行で危険な目に遭い「車道派」に
「自転車による交通事故ゼロ」という活動で主に高校生の自転車事故減少に実績のある株式会社セルクルの代表・田中章夫さん(59)は、15年前から自転車通勤をしている。最初の半年間は歩道を通っていたが、事故や事故手前の危険な出来事「ヒヤリハット」を体験したと明かす。
「自転車通勤で歩道を通行していると、交差点や駐車場の出入り口、脇道から出てくる車とぶつかりそうになりました。毎週のように車とぶつかりそうになったし、急ブレーキをかけて、ひっくり返ることもありました。常に身体のどこかに生傷がある状態でしたね」
その後、車道通行について学び、車道を走るようになって14年、見事に「ヒヤリハット」がなくなった。
「運転中の車は歩道までしっかり見る余裕がありません。でも、車道にいる自転車は否応なしに“邪魔だな”と思いながら認識している。だから、ドライバーから見えやすい車道が自転車にとっていちばん安全ということになるんです」