「指でも詰めてもらおうか?」
まともに反論するのも馬鹿らしくなる内容だが、全くの事実無根である。そもそも「谷口」という人物は私の知り合いにはいない。また、私はSNS上に携帯電話番号を公開していないため、取材時に野上に渡した名刺から、迂闊(うかつ)にもさらされてしまった。
この結果、美咲ちゃんの捜索活動に協力する関係者からのメールや電話が私のもとに相次ぎ、対応に追われた。
ブログへの投稿だけでは気持ちが治まらなかったようで、野上は私の携帯電話を鳴らし、またもや支離滅裂なことを言い始めた。
「美咲ちゃんが養子ってことがはっきりしたから」
意味が分からないので詳細を尋ねると、
「だからこっちに来いやこの野郎!」
と声を荒げる。それでもあらためて尋ねると、
「美咲ちゃんは中国からもらわれてきたんだよ。お前はそれ知らないのか? とも子がツイッターで書いてるんだよ」
と断言するので、該当するつぶやきの日付を尋ねると一言。
「本人に聞けよ!」
挙げ句の果てにはこう怒鳴りつけてくるのだ。
「指でも詰めてもらおうか? おう? こっちで取ってやろうか? なめたこと言ってんじゃねえぞ!」
「お金もらって書いたらしいね。週刊女性からいくらもらったんだよ? 裁判でも何でもやってやろうや」
こうした怒声に対し、私はできる限り丁寧に対応した。
とも子さんをSNSで誹謗中傷するのは野上だけではない。この電話から10日ほど前には、「殺しに行くよ!」「娘以上に怖い思いさせてやる!」などとメッセージを送りつけ、脅迫容疑で静岡県函南町の鳶職、才津勝二容疑者(31)が逮捕されていた。
この件を持ち出すと、野上は平然とこう言った。
「どうとも思ってないよ。関係ないじゃん。うちのコメントに書いてきたわけじゃないし、全く関係ない。俺がそそのかしたわけじゃない」
週刊女性の記事に関しては、玄関先に現れた野上の写真が掲載されたことが癪に触ったようで、「人の写真を無断で撮っていいのか? 玄関先で人に撮らせてそれで通ると思っているのか?」と問い詰めてきた。このため私は、小倉さん一家の写真をブログに掲載する許可を取ったのかと逆に聞き返した。
「お前のやっていることも同じだろ! ガキだろこのやろう! お前よう、そこらへんの会社員としゃべってんじゃないんだぞ!」
野上は裏社会の人間だとでも言いたいのだろうか。あらためて許可の有無を問いただした。
「許可も何も必要ないんだよ。あいつが犯人に決まっているんだから。美咲ちゃんの人身売買だと思う。証拠もあるよ。だから来いって言ってんだよ。お前本当にこっちから行くぞこら! さらって海にほん投げる奴もいるんだよ。まあそういうふうには遭わないようには祈るけどね」
「お前の記者生命を終わらせてやる」
「お前の実家は田舎だな。お母さんいるんだろ?」
野上からの脅迫電話は30分にもわたって続いた。