料理のコツはすべてめんつゆ
前の持ち主がそのままにしているだけだという、ステージ上の楽器類や無造作に置かれたカラオケセット。特に美味しいからではなく、業者に勧められたから、みたいな理由で手書きのお勧めビラを貼ってある焼酎。
このユルさ加減、まぁなんとかなるでしょムード、別にいいじゃん邪魔じゃないし、といった雑さと紙一重のおおらかさ。まったくもって、ダディの世界だ。
インタビューは実にゆったり、まさに居酒屋の雰囲気にふさわしく一杯やりながら、和やかな進み方をした。
「詳しくはいえないけど、若かりしころ金のトラブルでヤバい奴らにさらわれたときも、これはネタにできるなぁと、ボコボコにされながらちょっとニヤついてた」
みたいなハードな話にも、笑わされた。しかし、ダディの手作りのおつまみが出てきたときは、心底から「ついに来た」とわくわくしてしまった。
ダディは料理上手でも知られているが、手の込んだ金のかかるおしゃれっぽいものではなく、誰もが好きだといえる料理、誰の記憶の中にもある好物といったもの。思わずグルメ番組のレポーターと化してしまった。
「この鶏のから揚げ、ほんっとにサクサクッ。糸こんにゃくのから揚げなんて初めてですが、酒にむちゃくちゃ合う。味噌味の卵焼きも初めてですけど、しっかり下味がきいてる。こちらも下味がしっかりついたナスのから揚げ。カリッとした衣の下の柔らかいおナスの食感が絶品です。
あっ、これ知ってる。ダディのお得意な、餃子の皮を使ったピザ。これは絶対に子どもが喜びますね。あ、こちらはちょっとしゃれた、鶏肉と野菜のごま風味シチュー」
お子さんもお孫さんもみんな肌艶がよくて、ぷりぷりっと健康的だ。それにふさわしい心が育っているのも、すぐわかる。みんなダディのご飯で、大きくなった。
「料理のコツですか。みんなめんつゆ。すべてめんつゆ」
そこまで断言されると、大ざっぱさではなく哲学の域に入ってしまう。
「あと、ホットケーキミックスね。あれがあれば、子どもは育つ」
実際、みんなすくすくと育っちゃってるのだ。案ずるより産むが易し。このことわざをここまで体現し、本来の意味で使っている人がいるだろうか。
「子どもたちが育ちざかりだったころ、金曜日の段階で500円玉ひとつしかない、ってことがあって。この500円で土日をやりくりしないとならない、という状態で、さあどうするかと。で、小麦粉をふた袋買ったんです。まぁ小麦粉があればなんとかなると、楽観的でしたよ。事実なんとかなりましたからね」