真っ当に明るく生きて子育てをしてきた
ビッグダディは、いってみれば普通の人だ。岩手の普通の家に生まれ育ち、柔道は確かに何度も大会で表彰台に上がった。柔道をやっていた人に特有の耳の形、俗に餃子耳などと呼ばれるそれを見ても、ダディの柔道への本気ぶりはわかるのだが。
整骨院に弟子入りして頭角を現し、目をかけられて自分の店も持ったが、大繁盛はしなかった。整体の腕は優れていても、経営能力は別ジャンルというか。
いや、何もダディをけなしたいのではない。オリンピックでなくても優勝は大したものだし、整骨院の経営だってちゃんとやっておられた。なんだかんだで彼は耳目を集め、必ず援助したい人たちが現れるし、人望もある。なんたって、女も途切れない。
いろんな挫折や失敗を経ても、ときに家の全焼だのとんでもない災難に見舞われながらも、すぐ立ち直って真っ当に明るく生きて子育てをしてきた。これは、普通の人の素晴らしさを体現するものだ。
逆に、普通の人なのにここまでの知名度と注目が集められた、何も持たずにスターになった、それはちょっと、ほかにかぶる人が思いあたらない特別さだ。
何度も結婚離婚を繰り返した、奥さんが六回も七回も代わった。育てている子どもがわが子だけでなく相手の連れ子を含め、軽く十人越えたこともある。ちなみに、ご本人も、十一人兄弟だった。
というのは確かに平凡ではないし、自分の周りにはあまりいないけれど。大家族、多産というだけであればきっと日本国内に、隠れたる人たちがもっといるはずだ。
ダディ、見た目も尋常でない巨体だのひと目見たら忘れられない印象的な特徴があるわけでもなく、そのへんにいそうなちょっとコワモテだけど気のいいおじさん風。
その、あらゆる普通を集めた結果のとんでもない存在感とスター性、これはやはり唯一無二の性質を持つ歴史的な出来事と、その中心人物だ。
「まだ籍、空いてる~?」
なんといってもビッグダディは、次々に大事件ではないが自分の身の上にも起こりそうで起こらない、自分の家族にはありえないようでありうるかも、と思わせるあれこれを次々に引き起こしてくれた。
いろんな意味で親近感をもたらしてくれる一家に、ちょっと変わった親戚の人たちを見るような気持ちで、われわれは引きつけられた。はらはらしながらも、きっと大丈夫だ、絶対にうまく収まる、と見守ることが楽しかった。
最初の奥さんとの間に四男四女をもうけ、離婚するも復縁し、さらに一子をもうける。
「別れて別々の生活をしてるのに、ふっと連絡してくるの。『まだ籍、空いてる~?』って。すごく軽いノリで」
一瞬、『まだ席、空いてる~?』と聞き間違えてしまった。でも、ちょうどそのくらいのノリではないか。もともとそういう感覚で生きている女性が寄ってくるのか、ダディに感化されてそうなっていくのか。