薄くなった喜怒哀楽を蘇らせてくれる
「槇原さんのルーツはクラシック。彼は“クラシックは繰り返しの面白さなんですよね”と話していました。クラシックには必ずメインとなるテーマがあって、それがリフレインになる。“そのわかりやすさがいい”と語っていました。
多くのアーティストに、“誰々に憧れて音楽を始めました”という存在がいますけど、彼はそれだけではない。彼自身がパイオニアでもあるんですね」(田家氏)
坂本ちゃんも力説する。
「槇原さんの曲に出会わせてもらったことによって、20代30代になっても10代のような多感な時期を過ごすことができて感謝しかない。私も50歳を過ぎると、達観ではないですけど、喜怒哀楽が薄くなっているなって思うんです。でも、彼の曲を聴くと感情が豊かになる。蘇らせてくれるんです」
坂本ちゃんは、今でも初めてマッキーに会ったときのことが忘れられないという。
「『進ぬ! 電波少年』の東大受験企画が終わり、東京厚生年金会館のライブで初めてお会いしました。思いが爆発してしまい、本人の前で、“私のアドレスはラブラブマッキーなんです~!”ってまくしたてたら明らかにドン引きされて……。
人生でいちばんの絶頂の日が、人生でいちばん後悔をしている日。なんでもっと普通に接することができなかったんだろうって(笑)。それに、ライブが始まる前に、“坂本ちゃん!”ってマッキーファンの方から声をかけられたんです。
すごい真顔で、“テレビや雑誌でマッキー、マッキーって言うのやめてくれますか。これ以上、槇原さんのイメージを悪くしたくない”って言われて、すごいショックだった。これからライブが始まるのに!」
それもまた人生─。憧れの人に出会ってやらかしてしまう経験は誰にでもある。その心象すらマッキーなら楽曲にしてしまうかもしれない。そのときまた、われわれはそこに自分を重ね、没入するに違いない。
たしかに、槇原敬之は再びつまずいてしまった。でも、これで終わりなわけがない。平成を代表するシンガー・ソングライターが、令和に何を見せるのか……多くのファンが待っている。
「彼は、昔から“早く年をとりたい”と言っていました。20代のときから早く30歳になりたい、早く40歳になりたいと話していた。年を重ねた自分がどういうことを表現するのか楽しみだったんでしょうね。去年インタビューしたときに、彼がミュージカルをやってみたいと言っていたので、ぜひやってほしいと話したんです。
エルトン・ジョンのように、 シンガー・ソングライターにしか書けないミュージカルがある。人間の感情である喜怒哀楽、その4つに収まらない感情のひだに入ってくるような曲を作れる彼だからこそ見てみたい。まだまだやることはたくさんあるでしょうね」(田家氏)
逆境をどう乗り越えるか。彼自身、自らの歌で証明しているはずだ。
《取材・文/我妻アヅ子》