「奥村さん、あなたまだ先があるでしょ」
「私は世界大会に出場する際、人に迷惑をかけたくないと1か月前に必ず全身の検査をするんです。これは毎年、必ずやっています。それで3月に検査をしたら脳梗塞が見つかった。28日に即、入院しました」
雪辱を期した世界大会を目の前にしての脳梗塞発見。
「そのショックはホント大変でね……。“私の人生はおしまい。死んだと同じだ”と思いましたよ」
だが、奥村さんに絶望をもたらした定期検診が救いともなった。早期発見早期治療で手術なし、4種類の点滴による12日間の治療だけで退院することができたからだ。
とはいえ、翌4月末に控えた世界大会は、医師から欠場を命じられてしまった。
「入院が3月でしたから、世界大会まではまだ20日間ぐらい時間があるわけです。それで医師に“行っていいですか?”と言ったら“ダメ!”と。“私、全部手続きしているんですけど”といっても、“今年はダメ!”。
でも、次の言葉に感銘を受けたの。“奥村さん、あなたまだ先があるでしょ”って。90歳近い私に“先があるでしょ”と言ってくださった。うれしかったですねえ……。
私、その言葉を聞いたときに、“よう~し、私は不死鳥になろう!”と思った。それで退院してからまた1から始めたんですよ」
だが不死鳥になろうという意気込みでいた奥村さんを、さらなる大波が襲う。
点滴治療を終え、まだ様子見で入院中の4月3日のことだった。
「自宅に何回電話しても夫が出ないんです。2人でいつもしゃべっていたのが入院していなくなってショックだったんでしょうね。先生にそれを言うと、“なにかあったのかもしれない。看護師をつけるから行ってみろ”と。
それで看護師さんと家に帰ってみると、夫が寝室でうずくまっていたんです」
実は夫の肇さんには大腸がんがあり、5年ほど前から自宅で静養を続けていたのだ。
「主人も私も変わり者ですからね。抗がん剤を使うと、痛みや副作用がある。
主人は、“お前、考えてごらん。昔は人生50年といっただろう? それ以上はいいよ。俺は幸せだ、80歳まで生きたんだから”って。それで薬も飲んでない。
私も、好きなものを食べさせて、免疫力を上げればいいじゃないかと思ってた。
主人はうなぎが好きなんですよ。でも輸入品はダメなわけよ。実は私、うなぎは嫌いなんだけど(笑)。国産品は高いけどお金にはかえられないでしょ? 好きなものを食べていたからあれだけ元気だったんだろうって、みんなも言ってくれて。運動も一緒にしていたんですよ」