怖いのは貸金庫の借用書

 もうひとつ、財産の預け場所として盲点になりがちなのが、金融機関の貸金庫だ。夫が利用しているかどうか確認しておく必要がある

「貸金庫の中に入っているものも相続の対象になります。妻が勝手に開けることはできず、ほかの相続人全員の合意のハンコが必要になります。中身は不動産などの権利書や証券、金の延べ棒、記念硬貨など、人それぞれ異なります。

 遺族にとって怖いのが借用書などマイナスの財産が入っていたときです。もし遺してくれたプラスの財産よりもマイナスの財産が多ければ、相続放棄という選択肢も。相続放棄の手続きは、相続が発生したと知ったときから3か月以内という期限があります」

 3か月以降に借金が発覚すれば、困るのは遺族。借金をした本人は隠しておきたいのだろうが、マイナスの財産こそ生前に共有しておくべきだ。

夫の預金を自分の口座に移すのはNG

 一方、夫の財産がそこそこある場合は、相続税の“申告漏れ”に要注意。“うちはそんなに財産がないし、自分には関係ない”と思うかもしれないが、2015年に税法が改正され、相続税の基礎控除が大幅に引き下げられたことで庶民にも課税対象が広がった。例えば、夫が亡くなり、妻と子ども2人が相続人の場合、基礎控除額は4800万円。それを超えると相続税がかかる。都心に家がある人などは決して無縁ではない。正しく申告しないと、税務署が目を光らせて調査が入る可能性があるという。

「注意してほしいのが“名義預金”。例えば、夫の預金は2000万円なのに、妻の定期預金には3000万円入っている。妻は専業主婦で、実家から相続を受けていない」

 これは夫の定期預金が満期になったとき、妻の定期預金に移していたのだ。

「夫婦間でやりとりしたわけですが、税務署は“お金を稼いだのは誰か”を見る。つまり、夫の資産を妻名義で行った名義預金とみなされます。実際は亡くなった夫の財産なので相続財産として申告しなければなりません」

 夫婦間の相続には『配偶者の税額軽減』という特例があり、1億6000万円を超えなければ課税されない。だが、名義預金などの不正を指摘されれば追徴課税されることも。

「こうした事態を防ぐためにも、夫の預金と自分の預金を一緒にせず、きちんと分けておきましょう」

 相続税対策として、一般的に行われるのが生前贈与。年間110万円までの贈与なら贈与税が課せられないため、毎年、夫が妻や子どもにコツコツ贈与すれば、その分、相続財産を減らせる。ただ、これにも注意が必要。

「贈与と認められるのは、亡くなる3年前まで。それ以降に相続で財産を取得した人に贈った分は相続財産として計上しなければなりません。税務署の調査が入れば、ここ3年の間に夫の口座から引き出したお金は、相続の『申告漏れ』と指摘されてしまいます。ですので贈与するなら、早いうちから行うことが相続税対策になります」