新たな“圧力”を心配する声
小学校、中学校ともに不登校から断続的にひきこもるようになった新舛秀浩さん(39)。必死に勉強して大学へは行ったものの、中退後、一時は自信を喪失していた。だが地域コミュニティーとつながったことで、講演活動を中心に、ひきこもり当事者の親支援に従事するように。昨年、私が会ったときには生き生きと活動していた。
そんな彼はどうしているだろうと思いきや、実際の講演活動とオンラインでのサポート活動で充実しているようだった。
「私はもともと市外にはあまり出ないし、人混みにも行かないので、特に困ったことはありません。ただ、今後、在宅就労が進むと、ひきこもりの方たちに新たな圧力がかかるのではないかと心配しています。ただでさえエネルギーが枯渇しているからひきこもっているのに、そんな圧力をかけられたら大変です」
なるほど、と彼の視点に納得する。今後、人によっては親から「家で働く道を探れ」という圧力が出てくる可能性はあるだろう。家にいる生活が推奨されているからといって、ひきこもりの人たちが安寧の場を確保できたわけではないのだ。
ひきこもりを伝えるユーチューバーに
小学校3年生のころのいじめがきっかけで20年にわたって断続的にひきこもり、パニック障害やうつ病になったさとう学さん(42)は、こう返事をくれた。
「ひきこもりは白い目で見られていたのに、社会や世間がひきこもることを推奨するなんてまるで映画みたいです。世の中の価値観なんてあっという間に180度変わりますね。歴史的瞬間の目撃者になったような気がします」
さとうさんは、昨年夏、縁あって就職、都内の会社近くにマンションを借りて仕事に邁進(まいしん)していた。上司のお供で海外出張までこなしていたが、コロナ禍で多くの中小企業同様、勤務先も経営が厳しくなった。そこへ慣れない東京暮らしもあって心身の調子を崩して退職。ひとり暮らしをしていたが、実家に戻った。
仕事は辞めていたが、彼は元気だった。「コロナ禍で考え方が変わったか」と尋ねると、驚くほど前向きな答えが返ってきた。
「誤解をおそれずに言えば、すごくチャンスだと思いました。ウイルスは権力者やお金持ちにも平等に襲いかかり、社会を強制的に変える力がある。多くの人は生活水準が下がることを恐れていますが、僕はもともと生活水準が低いので耐性があります。アフターコロナの世界では、何もしがらみがない僕のほうにチャンスがあると思いました」
彼はYouTubeを使って英語での発信を始めていた。それを見たコロンビアやアメリカ、イギリス、ブラジルなどのひきこもり当事者たちと英語でやりとりをし、インタビューの様子もアップしている。今後は海外のひきこもりの人たちに自分たちの動画を撮影してもらい、それを編集して映画化していくつもりだという。世の中の価値観ががらりと変わったからこそ、彼は「何でもありだ、アイデア勝負で、自分のやりたいことをやっていこう」と思えたという。