「最低」な会社の隠ぺい体質
諦めきれない加奈さんは、居住地の「労働センター」に相談へ。ここでは、解雇・パワハラなどの労働に関する相談を受けつけており、事情を話すと「もしかすると、報告が社内の途中で止まっているかもしれない。社長宛に顛末を手紙にしたためて、事実を知らせてはどうか。自分が納得できる金額を請求してみてください」とのアドバイスを受けました。
「もし交渉が不調に終われば、会社とあなたとの間に入って、解決に向けた手伝いをする“あっせん申請の窓口”もありますから」と、力強い言葉ももらったそう。
加奈さんは精魂込めて、社長宛に手紙を書きました。Aさんのこと、自分のこと、B、Cのことーー。しかし3週間ほど経って会社から届いのは、目を疑いたくなるような返答だった。
「異なる事実を確認しました。従って、あなた様の主張なさっている請求には応じかねます」
結局、彼女への配慮は何もないまま、会社は隠ぺいを決め込んできたのです。
先ほども申し上げたように、これまで私はさまざまなブラック業者を見てきました。彼らは表と裏の顔を使い分けながら、立場の弱い者を踏み台にして、のし上がろうとします。社内の人間が起こした悪事や不祥事を決まって隠ぺいします。
しかしながら、こうした会社の表の顔はなんとも立派な体裁になっているのが事実。実際、加奈さんが働いていたホテルのホームページは高級感のある素敵なもので、多くの人が訪れています。
加奈さんは精神的に不安定となり、現在も通院中。会社への信用を完全に失った今、彼女にとって会社は「恐怖」の存在でしかないのです。これから先、労働センターにあっせん申請をして会社と交渉すべきなのか、わいせつ行為での被害も相談するべきか。彼女は恐怖心から、未だ次の一歩が踏み出せない状況でいます。
被害のトラウマが心を覆うなか、最後に加奈さんは重い口を開いてくれました。
「もしかすると、私と同じような仕打ちを受けて仕事を辞めた人もいるかもしれません。諦めずに相談する先があることだけは知ってほしいです」
同じようなトラブルを抱える人が公的機関へ相談して新たな真実の矢を射ることで、一社でも多くブラック企業がまともな会社へと変わってほしい。そうした希望を胸に抱いているようにも見えました。
多田文明<ただ・ふみあき>
1965年生まれ。詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト。ルポライターとしても活躍。キャッチセールスの勧誘先など、これまで100箇所以上を潜入取材。それらの実体験を綴った著書『ついていったらこうなった』はベストセラーとなり、のちにフジテレビで番組化。マインドコントロールなど詐欺の手法にも詳しい。そのほか『だまされた! 「だましのプロ」 の心理戦術を見抜く本』など多くの本を出版、テレビやラジオ、講演会などへの出演も。