北野武が監督を務める映画『アウトレイジ』シリーズを始め、Vシネマやアウトロー作品には欠かせないバイプレイヤーとして活躍する俳優・中野英雄(56)。その次男は、ドラマや映画に引っ張りだこの若手俳優・仲野太賀だ。息子の出演作が発表されるたびに《頑張れ!》《みなさんぜひ見てください!》と自身のSNSからエールを送る“親バカ”な姿には、思わず笑みがこぼれる。各界から高い評価を得る息子の姿を、父として、同じ「俳優」のひとりとして、どう見守っているのだろうか。

僕の背中は見なくていい

「僕が俳優として、ものすごく役にのめり込んでいたのが26〜28歳あたり。ちょうど今の太賀くらいの年齢で、ドラマ『愛という名のもとに』(フジテレビ系)などの撮影をしていたころですね。自分の生活を犠牲にしながら、とにかく与えられた役をみっちり演じることに没頭していた。だから太賀もきっと、今がいちばん仕事に夢中なんじゃないかと感じているんです」

 現在27歳の息子・太賀を昔の自分自身と重ねる。

 2020年だけで8本の映画に出演し、現在放送中のドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)での演技も光る太賀は、すでに15年のキャリアを積み上げている注目株。

「これまで芝居の相談をされたこともなければ、僕から偉そうに何かを言ったこともない。僕の背中は見なくていいと思っているし、彼の世界は彼のものだから。とにかく自由にやっていってほしいですね」

 初めて観た太賀の出演作は、'07年の映画『バッテリー』。野球部に属する中学生らの成長や心の葛藤を描いた作品で、太賀も野球少年のひとりを演じた。当時、映画館の大きなスクリーンで息子を目にした日のことを振り返り「物語をほとんど覚えてないくらい大泣きしちゃって」と、笑う。

「僕と同じ仕事を選んだだけでも泣けましたけど、あのときはその感動を越えましたね。あと、自分と太賀が似ているとは、一度も思ったことがないんですよ。周りから“似てるね”と言われても、正直あまりピンとこない。スタイルだって、若いころの僕はずんぐりむっくりだったけれど、太賀は細くて母親似だから(笑)」

 バラエティーやラジオ番組で太賀は「オヤジに溺愛されている」と発言することがある。それもそのはず、中野は自身のツイッターやインスタグラムでマメに太賀の出演作を宣伝し、ドラマの感想をすぐにつぶやくなど、とにかく息子の活躍を誰より喜んでいる姿を1ミリも隠さない。

ドラマを観ているときは、“仲野太賀”というひとりの役者だとしか感じていません。けれど、放送が終わればやっぱり息子なんです。『この恋あたためますか』を観終わったあとにも“あ〜、今回は(共演している)中村倫也くんのほうがよかったな。太賀、ちょっと負けちゃってるな”とか振り返ったりして(笑)。

 中村くんといえば、僕は以前、彼と太賀が共演した舞台を観に行っているんです。あのころは中村くんがテレビにはあまり出ていなかったので、こんなに引き込まれる演技をするのかと衝撃を受けました。その夜、太賀に“あの主役(中村)ヤバいね!”と伝えたら、太賀が“彼は舞台の世界ですでに有名だし、俺じゃあ足元にも及ばない人なんだ”って。そんな中村くんと、今ドラマで一緒の現場に立っていて、彼のすごさを目の当たりにしながら何とか頑張っているんじゃないかなと思っています」

 息子の話をしている中野は、少し照れくさそうでありながら、表情はとても穏やか。自分と同じ“芸能界”という世界に踏み込んだ息子を誇らしく思い、同時に心配もしていることが十分に伝わってくる。

中野英雄。息子の太賀とは、ささいな話題でも頻繁にLINEで連絡を取り合うという
中野英雄。息子の太賀とは、ささいな話題でも頻繁にLINEで連絡を取り合うという