自尊感情満たすために加害を繰り返す男
問題行動を繰り返している加害者たちもいる。痴漢や盗撮など性犯罪者の再犯防止プログラムを日本で先駆的に実践している精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんはその加害者心理を次のように分析する。
「微罪を犯す人たちの問題行動はストレスへの対処行動のひとつ。クレームを言わなさそうな人や自分より弱い立場の人を選んで、相手を傷つけることで自尊感情を満たし、さらに支配したいと考えています。また下着の常習窃盗などは“盗むことで女性とのつながりを感じられる”という『歪んだ承認欲求』もその背景に見受けられます」
彼らにとっては、ストレスへの対処行動は手ごろであることもポイントなのだとか。
「日常の中ですぐできるからこそ繰り返す。そのたびに対象行為へのハードルが下がる。これも微罪の特徴ですね」
実際に加害者が更生することはあるのか?
「刑事事件になってはじめて加害者は治療につながります。そこでは罪悪感というよりも、仕事や家庭、社会的な信用や世間体を失いたくないという思いが先行していますね。私が勤めている榎本クリニックでは、痴漢をはじめ盗撮や下着窃盗などの常習者を性依存症とみなし、再犯防止プログラムを行っています。治療には時間もかかりますが、3年以上通院している長期継続者では再犯した人は非常に少ないです」
被害女性は“私がそんな格好していたから”“夜道を歩いていたから”など自責してしまうこともある。これについて斉藤さんは、「この考えの背景には、『女性だったらこうあるべきだ』という男尊女卑社会の刷り込みも大きい」と指摘する。
被害者にとって理不尽きわまりない微罪は、警察に届け出ることも、加害者の更生もその道のりが険しい。
しかし、その現実に絶望せず、知恵を備えることこそが、私たちの最大の武器と自衛策になるのだ。
・精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤章佳さん 榎本クリニックにソーシャルワーカーとして長年勤務、さまざまな依存症問題に携わる。著書『男が痴漢になる理由』『小児性愛という病』『セックス依存症』など多数 ・探偵・元刑事 沼沢忠吉さん 茨城県警で約20年、事件を担当。現在はDVやイジメ問題などに特化した探偵事務所「寄す処探偵社」と芸術家の活動支援施設「Art Space 寄す処」を運営弁護士 ・杉浦ひとみさん 東京アドヴォカシー法律事務所。弁護士として子ども、障害者、犯罪被害者、女性など社会的弱者の人権分野に重きを置いた訴訟も多く手がけている
取材・文/アケミン