「三密」を避けたお別れが可能に
真保さんはエンバーマーでもあり、故人を棺に納めるために必要な作業を行う納棺師でもある。いずれの場合も、ご遺体の表情の復元は大切な仕事のひとつなのだという。
「故人様との最後のお別れのときのお顔というのは、みなさま、しっかりと覚えいらっしゃるものなんですね。ですから、目やお口が開いていたり、痛々しい表情をなさっているご遺体の場合は、できるだけ自然に休んでいるような表情をお作りします。
もちろん、おひげを剃ったりお化粧をしたりもいたします。故人様が安らかなお顔になることで、ご家族様のお気持ちが少しでも癒されますようにと心を込めて仕事をしています」
コロナ禍の今、故人とのお別れの仕方も変わらざるを得ないのが現状だ。三密を避けて家族だけでひっそりと見送るケースも少なくない中、エンバーミングによって新しい葬送の形が可能になるという。
「大勢の方が集まるお葬式ができない場合、たとえば故人様にはご自宅でゆっくりとお休みいただいて、最後のお別れをしたい方が個別にいらっしゃるような形をとることで新型コロナの感染リスクを下げられます。エンバーミングによって火葬までの時間をゆっくりと取ることができれば、こうしたお別れの形も可能になるんです。
私がこれまでにご対応させていただいたご家族様の中には、ご自宅で故人様をお花や風船で囲い、来訪者をお迎えした方や、ひと部屋を故人様の記念館のように仕立てた方などがいらっしゃいます。エンバーミングによって得られたご遺族様の時間的なゆとりは、悲しみを癒す心のゆとりへと変化していくんです」
真保さんが携わっている業務は、悲しみの中にある人をサポートする“グリーフケア”の一連の流れのひとつに数えられる。もともと整形外科の分野に特化した医療器械の営業職に就いていた真保さんは、医療業界で働く中でグリーフケアに関心を持ち、エンバーマーへの道へ進んだ。ご遺体を入浴させて洗浄する湯灌や納棺などさまざまな現場で経験を積み、2011年5月に現在の会社を立ち上げた。
「ご遺族の方に感謝をしていただけることは大きな励みであり、そのおかげでこの仕事を長く続けることができています」
そう話す真保さんだが、ときには大きなストレスを覚えることもあるという。
「私にも感情がありますから、世間的に大きく取り上げられるような死を遂げられた故人様が続くと、気持ちが不安定になってしまうこともあります。たとえば、近年は若い方の自死が増えていると言われていますが、実際にそういったご遺体に直面することもありますから。そのような事例が続くのは、やはりつらいものです」