カラオケ店で過ごした女性は、朝、アパートに戻って来た。ちょうど浴室で遺体を解体している最中だった。女性は解体現場を見ている、と供述している。
このあたりの事情を推測としながらも、白石被告はこう説明している。
「事前に、ツイッターの方と会って、自殺を手伝って、遺体を解体すると話していたはずです」
だが、それでは警察に通報されてしまうのではないか、そのおそれはなかったのか、と検察が問う。
「知り合ってから時間が経ちます。信用、信頼、恋愛、依存の感情を私に向けてきたので、話した結果、例えば警察に話したら、私が捕まって私がいなくなると困ってしまうので、言わないだろうと考えて話しています」
この女性は、結果的に殺されることもなければ、警察に通報することもなかった。
悩みや問題がある人のほうが口説きやすい
白石被告には、こうして相手が自分をどう思っているか、十分に理解して、巧みに操作していたところがある。むしろ、まるで狩りを楽しむようにコミュニケーションツールを利用して女性を絡め取っていた。
そもそも、ツイッターで自殺願望のある女性を探したことも、こう語っていた。
「何か悩みや問題がある人のほうが口説きやすいと思いました。操作しやすいということです」
日本では10代後半から20代、30代の死因の第1位が「自殺」であること、そんな状態が20年以上続いていることは、以前に書いた(座間事件が映す「若年層の死因1位が自殺」の闇)。白石被告は、希死念慮を持つ若者が多く、付け込みやすいことも知っていた。対人スキルも心得ていてうまく利用した。そこがほかの死刑事件と違うところだ。
白石被告は死刑になっても控訴はしないと法廷で語っていた。そして、被害者の承諾はなかった、と弁護人と違う主張をして、事件を流暢に語った。にもかかわらず、反省、悔悟の言葉はなかった。
裁判が終わってみると、この事件で最も希死念慮に囚われていたのは、白石被告なのかもしれない。自殺願望を持つ同世代に親近感を抱き、猟奇的犯行をゲームのように楽しみ、それで死刑になることを望んだ。
そうでなくても、解体した遺体の一部を一般ゴミと一緒に捨てる一方で、被害者の頭部をアパートに置いておいてどうするつもりだったのだろうか。ため込めば、いつかは追いつめられ、破滅する。その時を待つかのように、警察がアパートを尋ねてきたときは、観念してごまかすこともしなかった。
青沼 陽一郎(あおぬま よういちろう)作家・ジャーナリスト
1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。