条件反射のように口説いてしまう夫
その後、夫婦喧嘩は毎晩。美和さんは毎晩泣き、最近では稔さんは「もう終わったって言っているだろう」と開き直ったり、言い争いにうんざりして深夜なのに出かけてしまったりするそうです。
稔さんにもカウンセリングに来てもらい、浮気の原因を探る為に、「はい」「いいえ」式で答えてもらう質問紙と『ロールシャッハ・テスト』(10枚のインクのしみを見て、何に見えるか答えてもらうことで潜在意識がわかる)という心理テストを受けてもらいました。
稔さんの浮気の原因は、美和さんへの不満ではなく、人から嫌われる不安が極端に強く、誰からでも好かれたいと思ってしまうためでした。目の前にいる人に自分を好きになってほしい。そう思ってしまう人はいるのです。
「もしかして、誰でもよくて、条件反射のように口説いてしまうことがあるのではないですか?」
私がそう尋ねると、稔さんはそれを認めました。そんな夫をどうしたら信じられるのか──美和さんの苦しみは深まりました。2人でカウンセリングに来たときも、美和さんはずっと泣いていました。稔さんはカウンセリングの場でも「もう絶対に浮気はしない」と言い、「飲み会は減らすし、行くときにはメンバーの写メを送る」と約束しました。それでも美和さんの不安は消えるはずがありません。その後もひとりでカウンセリングに通ってきた美和さんは毎回泣き、つらさを訴えました。
「夫の顔を見ると、不倫相手とのことを想像してしまって苦しくなります。唐突に涙が出るし、食欲もないし、吐いてしまうこともあります。悪夢でうなされることもあります。夫の言葉も写メも信じられません。全部嘘にしか思えないんです」
子どもたちも親の異変を感じるように
それでも、まだ夫のことが好きな自分がいて、信じたい自分もいて。そして子どものことを考えると離婚にも踏みきれない。夫が帰ってきても顔を見るとイライラするし、帰りが遅いとまた浮気か、と悲しくなる。その繰り返しでした。そして美和さんが不倫の話を持ち出すと、稔さんは「また蒸し返すのか」「もうその話はやめてくれ」と言うのだそうです。最近は、子どもたちも2人の様子を見て異変を感じ、急に泣き出したりするようになったそうです。
美和さんのつらさが理解できているのか、もう一度稔さんに来てもらったところ、「苦しめたのは理解できているつもりです。だから努力もしています」と言いましたが、不倫する夫の多くは、自分の行動が妻を苦しめていることに気づいていません。稔さんには、美和さんのつらさを理解してもらうために、カウンセリングを続けてもらっています。条件反射のように目の前の相手を口説いてしまう、癖のようになっている行動を修正するためでもあります。ですが、まだまだ時間はかかるでしょう。そしてときどき離婚を考えながらも、稔さんを信じようとしている美和さんの苦しみも続きます。
時間が解決してくれる部分もありますが、最終的には稔さんがどれだけ努力できるかにかかっています。