一斉接種スタートは早くても夏以降に
日本人への安全性が不透明な状態で、政府が目標に掲げる2月下旬の接種はできるのだろうか。
「これは菅首相が政治的な立場から願望として発言しているだけです。新薬を承認するときは専門家が厚生労働省の審議に参加し、安全性などを科学的に判断するのが原則。日本人での臨床試験データの検討も含めると2月下旬はやや性急すぎるのでは」
コロナワクチンは急ピッチで製造されているものの、計画より遅れており、必要数を確保するまでにはかなり時間がかかるともみられる。
承認されたからといって国民全員がすぐに接種できるわけではないのだ。
まずは医療関係者、65歳以上の高齢者、重症化リスクの高い基礎疾患がある人の順で優先的に接種が行われる。
「一斉接種が始まるのは早くても夏ごろでしょう」
重症化リスクの低い20〜30代の接種時期はそれより遅くなるかもしれない。
「ファイザーのコロナワクチンはマイナス70度で保管、管理しないといけない。そんな設備がある病院は限られているので、どこの医療機関でも打てる状況にはならない。拠点を作り、そこに人を集めることになる」
ファイザーのコロナワクチンは接種後、数週間あけて2回目の投与が必要となる。
もしワクチンの効果が半年程度だった場合、一斉接種が始まるころには医療関係者らのワクチンの効果が切れはじめ、2度目の接種を迎える時期に。そうなれば一般人のもとにはいつまでたってもワクチンが回ってこない事態にもなりかねない。
できるだけ早く接種するほうがいい
だが、不安なことばかりではない。コロナワクチンが現状を打破する希望にはなる。変異株に関しても現状では効果があると推測されている。
「うまくいけば、来年の今ごろにはステイホーム状態が改善されると考えられます。今後、今よりも効果の持続期間が長く、より安全性が高いコロナワクチンも開発される可能性は十分にあります」
ワクチン接種が感染予防では最も効率がいい手段だ。
接種が義務化されることはないだろうが、感染防止の観点から学校や職場などで接種証明書を求められる場面も出てくるかもしれない。
「個人的にはできるだけ早く接種するほうがいいと思います。接種すれば生活の自由度はずっと上がります。ウイルスがこの先、完全になくなることはありません。コロナ前に限りなく近い生活に戻る最短ルートがコロナワクチンなのです」
■専門家が懸念するポイント
(1)一斉接種2月下旬はほぼ不可能
(2)日本人への臨床データが少ない
(3)重症化を防げるかどうかは不明
(4)効果が持続する期間も不明
(5)副反応が出る可能性がある
(6)接種場所が限られてしまう
(7)接種証明書の提出を求められる可能性も
村上和巳さん フリージャーナリスト。医療専門紙の記者を経てフリーに。専門は国際紛争や安全保障、災害・防災や医学分野など。現在は毎日新聞医療プレミアでも執筆。『がんは薬で治る』(毎日新聞出版)など著書多数