【Part2】専門医が語る治療法と予防法

 一方、最近になって、病院での依存症の診断基準や治療法も確立されつつある。昭和大学附属烏山病院の精神科医・常岡俊昭先生は、ギャンブル依存症の治療に外来と入院で対応している。

「病院でのプログラムでは、自分と向き合って、どういうときにギャンブルをしたくなるのかに気づき、認知を変えていく治療を行います。16回のプログラムですが、すべてに出る必要はなく、全部出ると治るというものでもありません。

 依存症は脳のコントロール機能が壊れている病気ですが、そこを暴走させないようにするには、長くプログラムを続けてもらう必要があります。そのため、困ったときにすぐ相談できる、通いやすい場所で受けていただきたいのです。

 また、依存症の回復には仲間が必要なので、病院でのプログラムと自助グループの両輪での治療をおすすめします。認知を変えるといってもひとりでは限界があり、他人と会話したり、交流することが、正しい認知を取り戻す力になります」

 病院で依存症を治療するメリットは、精神疾患がある場合の治療ができる点もある。

「ADHD、うつ、不安障害といった病気を併発されている方には薬を出すこともあります。精神疾患があると気持ちが不安定になりがちなので、まずはその治療をしてから、依存症に向き合っていただきます」

 ギャンブルやゲーム依存は、アルコールや薬物依存と違い、脳に変化が起きていることを自覚しづらいので、依存症の判別までに時間がかかることもあるという。

「お酒を飲むと酔っ払いますし、薬をやると脳に変化が起こることを自分で理解できますが、ギャンブルやゲームでは、脳が暴走している自覚ができません。しかし、お酒を飲んでいるときと同じことがギャンブルやゲームをしているときにも脳には起こっています。

 依存症にだらしないイメージを持っていて、自分が依存症だと認めたくない、病気と思いたくない人も少なくありません。でも、依存症は誰でもなる病気で、回復できます。軽症のうちに病院を受診していただければ回復も早くなります」

 最後に、依存症にならないための予防法はあるのだろうか。

「若いころの依存対象への曝露(ばくろ)が依存症の発症に影響します。子どもを競馬場などに連れて行かない、記念日などでも小さい子どもにお酒をすすめないといったことが重要です。

 また、自分の感情をふだんから話せることが大切です。お酒を飲んだときだけ饒舌(じょうぜつ)になるというのは危険で、ふだんの状態で話せるコミュニティーや相手を見つけましょう。つらくなったときの依存先を複数持つようにし、友達に電話する、旅に出るといった方法が選べるのがベターです。

 そして、依存症の正しい知識を持っておくことが、依存症になったときに重症化を防ぎ、プラスに働くと思います」

《PROFILE》
常岡俊昭 ◎和大学医学部を卒業後、同大学医学部精神医学講座に入局。2009年より昭和大学附属烏山病院に勤務。2018年より慢性期病棟病棟長。専門は薬物依存・ギャンブル依存・アルコール依存など。ASK認定依存症予防教育アドバイザー。

【ギャンブル依存症チェック「LOST」】

L(Limitless)
□ギャンブルをするときには予算や時間の制限を決めない、決めても守れない
O(Once again)

□ギャンブルに勝ったときに次のギャンブルに使おうと考える
S(Secret)
□ギャンブルをしたことを誰かに隠す
T(Take money back)

□ギャンブルに負けたときにすぐに取り返したいと思う

※自分の1年以内のギャンブル経験が2つ以上あてはまったら、早めに相談機関へ。

【アルコール依存症チェック「CAGE」】

C(Cut down)
□あなたは今までに、飲酒を減らさなければいけないと思ったことがありますか?
A(Annoyed by criticism)
□あなたは今までに、飲酒を批判されて、腹が立ったり、いら立ったことがありますか?
G(Guilty feeling)
□あなたは今までに、飲酒に後ろめたい気持ちや罪悪感を持ったことがありますか?
E(Eye-opener)
□あなたは今までに朝酒や迎え酒を飲んだことがありますか?

※2つ以上「はい」があれば、早めの受診を。