妻から離婚調停を申し立てられる

 当時の宮里さんはまだ「気持ちを伝えればわかってくれる」と信じて疑いませんでした。きちんと謝り、心を入れ替え、「二度と同じことをしない」と誓えば、妻子は戻ってきてくれると。そんな宮里さんの希望を打ち砕いたのは10日後、自宅に届いた弁護士からの手紙。「今後、離婚手続の一切を代理しますので、何かあれば私に連絡してください。くれぐれも美紀さんに連絡しないように」

 手紙にはそんな非情な一文が盛り込まれていたのですが、事務所のホームページに「女性の権利向上」を掲げている弁護士からの一方的な通告を目の前にして、宮里さんは頭が真っ白に。手は小刻みに震え、目頭が一気に熱くなり、そして足は宙に浮いているような感じで、何が何だかわからない状態に。

 さらに追い打ちをかけるかのように家庭裁判所から呼び出しの手紙が届いたそうです。例の件から20日後のことでした。それは妻が離婚調停を申し立てた何よりの証拠。それでも宮里さんはあきらめきれず、弁護士を介さずに妻子に直接、謝りたいと思っていました。宮里さんが筆者の事務所を訪れたのは妻子の居場所を突き止めようとするタイミングでした。

妻がとったDVの支援措置

 ところで戸籍の附票という公的書類があります。これは出生から現在までの住民票の履歴が書かれており、住所地ではなく本籍地の役所で発行してくれます。住民票は原則、住所地の役所が発行しますが、妻子は別の市町村に転居した可能性があるので、住民票から探し当てることは難しいです。

 一方、宮里さん夫婦はまだ離婚していないので、妻子と宮里さんの本籍地は同じです。そのため、宮里さんが妻子の戸籍の附票を申請することは可能です。筆者はどうしても妻子の居所が知りたいという宮里さんに、「戸籍の附票を取ったらどうでしょうか?」とアドバイスをしました。

 宮里さんの場合、住所地と本籍地は同じです。宮里さんは市役所へ出向き、戸籍の附票を入手しようとしたのですが……窓口の担当者は「発行できません。理由はお伝えできません」の一点張り。

 宮里さんは門前払いを食らい、市役所を後にするしかありませんでした。DVの事実を証明することができれば、夫が窓口に来ても妻子の書類を発行しないよう頼むことができます(=支援措置)。妻がこの手続を行ったのは明らかでした。

 宮里さんが亡くなったのは、それから1年後のこと。美紀さんいわく宮里さんは裁判所からの呼び出しを無視し続け、離婚調停に一度も出席せず、何の進展もなかったそう。こうして離婚ではなく死別という形で幕を閉じたのです。