一般車への普及を目指しプレゼンに奔走
重傷事故7割減─。この驚くべき成果を、めざといマスコミが見逃すはずがない。新聞やテレビ各社が一斉に報道。タクシーなどの運輸業を中心にドライブレコーダーの認知度が高まり、続々と採用されていく。
大慈彌さんに負けじとばかりに、片瀬さんも動きだす。 タクシー各社が続々と搭載を決めても、一般車両でははかばかしくない。目標は、日本で走る自動車すべてへのドライブレコーダー搭載だ。
『交通事故遺族の会』の取り組みの一環として、パワーポイントで自作した資料片手に、国土交通省や警察、検察、保険協会へドラレコ搭載をプレゼンしてまわった。
'09年には国内最大手の自動車メーカー・トヨタ自動車にも働きかけた。遺族の会の会員で、株式を1株だけ保有する“一株運動”を起こし、株主として株主総会に出席。その場でドライブレコーダーのプレゼンを行ったのだ。
同会・元理事の中島朋子さん(74)が言う。
「警察署や関係省庁に直接言いに行っても埒が明かなくて。それじゃあメーカーに行こうという話になったんです。手をあげたら指名されて。それで私がドラレコの説明をすることになったんです(笑)」
だが、片瀬さんの努力や大慈彌さんの尽力、遺族の会の思いに反して、一般車両への搭載はなかなか進まなかった。
状況を打破するきっかけは、国交省が動いたことだった。片瀬さんによれば、
「『交通事故問題を考える国会議員の会』という、国会議員の有志の集まりでプレゼンをしたら議員さんたちの反応がよくって。参議院の常任委員会のひとつに決算委員会があるんですが、その席で政府に質問をしてくれたんです。それが契機になって、国交省が動いてくれました」
まずは国交省が主導してドライブレコーダーを開発。それをバスやタクシーなどの営業車に搭載させ、効果を検証させたのだ。
データから確かに効果があることを確信した国交省は、ドラレコ普及に向けた支援を本格化させる。カードから画像を取り出しチェックするためのプログラム開発を後押ししてくれたのだ。
しかし、営業車両はともかく、一般車両への搭載は遅々として進まないまま。のちに片瀬さんらが驚くほどの変化が訪れ、世間一般への認知が大きく広がったのは、社会問題となった“あおり運転”がきっかけだった。