柏戸が、素足でタバコをもみ消して!?

 それにしても、大鵬さん、貴闘力さん、王鵬関……、気がつけば三代にわたる親子鷹の相撲を見ることができている私は、幸せ者よね。私たちが子どものころは、ラジオしかなかった。相撲と野球中継は人気番組で、いつも聞いていたから、物心がついたときには魅了されていた。

 吉葉山さん(第43代横綱)、東富士さん(第40代横綱)といった力士が好きだったけど、とりわけ、柏戸さん(第47代横綱)が好きだった。あの当時は『巨人・大鵬・卵焼き』と言われていたけど、私は『巨人・柏戸・水割り』(笑)。今でもよく覚えているのは、画家の山下清さんと一緒に柏戸さんの伊勢ノ海部屋を訪問したとき、柏戸さんたら、吸っていたタバコを素足の裏で消しちゃって、山下さんも私もビックリした。足の裏を見せてもらうと、革靴のように頑丈だったことを覚えている。

 今ではあまり見かけなくなったけど、あの時代のお相撲さんはスーツを着ることも珍しくなかった。輪島さん(第54代横綱)はとてもスーツが似合う人でしたね。今は、力士本人が車を運転することが禁止されているけど、当時はまだ運転することができた時代 。輪島さんと対談した際、彼はその大きな身体に負けないくらいのリンカーン・コンチネンタルで撮影場所までやってきたの。横綱がリンカーン・コンチネンタルを運転している──、夢も話も大きいわよね。

 対談が終わると、ほんの少しの間だけれど、私を乗せて夜の都心をドライブしてくれた。もちろん、何もなかったわよ。車を自慢したかったんだと思う。その様子がチャーミングだったから。お相撲さんはぶっきらぼうだけど、いい人が多いの。屈折していないから面白いの。


ふじ・まなみ 静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、作家としても知られ、句集をはじめ著書多数。

《構成/我妻アヅ子》