「コロナ感染」を理由に自殺、しかし…
田中さんは2016年7月にアイルを創業し、現在は一般的な葬儀のほかに行政からの依頼による葬儀も多く手がけている。その中には飛び降り自殺や轢死などで原型をとどめていないご遺体もある。
「最期のお別れのときのお顔というのは、深く記憶に残るものですから。お顔はお見せせず、元気だったときの面影を偲んでいただいほうがいい場合もあります。どうしてもという場合は故人様の特徴をうかがって、たとえば右腕にほくろがあるならその部分だけをお見せするという方法をとるようにしています」
近年は自殺が増えており、さらにコロナ禍が拍車をかけていることを痛感しているという。
「新型コロナを患ったと悲観して自殺した方がいらっしゃいました。でも、亡くなった後にご遺体をPCR検査にかけたところ、罹患していないことがわかったそうなんです。コロナ禍で体調を崩すと誰しも『コロナに罹ったかな』と思うものですが、心身が弱っていると新型コロナの疑いがあるだけで命を絶ってしまうこともあるんです」
また、テレワークの弊害が子どもに及んだケースにも直面している。
「在宅勤務で両親が家にいる時間が増えるにつれて夫婦ゲンカが多くなり、それを苦にして自殺をしてしまったお子さんがいます。子どもや女性の自殺は増えていますね。未来ある人の葬儀は、何度経験しても切ないものです」
一般的な葬儀社では打ち合わせとセレモニーは担当者が異なるが、アイルでは打ち合わせをした人間が葬儀後の相談等のアフターフォローまですべて担当する。遺族と接する時間が長い分だけ故人への想い入れも強くなり、自然と親族のような心境で業務に携わっていくのだそうだ。
「アイルは『ご縁をいただいたご遺族様や故人様に心を込めた丁寧な葬儀をしっかりと行っていきたい』という志を持って設立した葬儀社です。私ひとりではじめた会社も、今では10名ほどのスタッフを抱えるまでになりました。でも、これ以上、会社を大きくするつもりはありません。これからも時代に合わせながら、まごころを持って仕事に取り組んでいきたいと思っています」
<田中啓一郎さん>
長崎県出身。高校卒業後、アパレル業界や飲食業界を経て27歳の時に葬儀会社に就職。数多くの葬儀を取り仕切る中で実績と人脈を築き2016年7月に株式会社アイルを創業。
<株式会社アイル>
東京都新宿区西早稲田に本社、世田谷区と小平市に営業所を持ち、東京全域から周辺県までの地域で葬儀を提供。事前相談から葬儀後の手続きやお墓の相談といったアフターサービスまで、まごころを込めて遺族と故人に向き合っている。公式サイト:http://airu.jpn.org