被害者・加害者ではなく
当事者と思うことで見えてくるもの

 浜口さんが出会った、結婚・夫婦カウンセラーである棚橋先生によると、昨今、事務所に相談に来る人たちは肉体的DVよりも、精神的DVに苦しむ人のほうが圧倒的に多いという。

「ひと昔前まで、男性が腕力や体力にものを言わせ女性を服従させることが容易な時代もありました。女性も出産できてこそ一人前と評価される、そんな時代の名残が未だ残っているからこそ、男性から女性への身体的暴力は終わらないのかもしれません。

 しかし、今は、執拗な形で精神的に追い詰めるという暴力が増えていると感じます。モラハラがエスカレートして身体的暴力になるというのではなく、それこそ全く違うタイプのもののように感じます。DVも知能戦の時代と言えるのかもしれません。

 また、家庭環境が与える影響はとても大きいと感じています。父親が母親を見下す、攻め立てる。そんな家庭に育ったことで、暴力はいけないと誰よりわかっているはずなのに中から溢れ出す暴力的な感情を抑えることができない。連鎖から起きる新しいDV家庭の発生は問題ですよね」

※写真はイメージです
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 相談に来た人に棚橋先生が必ず伝えているのが『加害者、被害者ではなく、お互いがこの問題の“当事者同士”である』ということ。

「当事者が抱えた問題に向き合うのはかなりの時間がかかります。でもね、離婚するにせよ、夫婦関係を修復するにせよ、まずはDVの本質を知らなくてはならない。事件の加害者と被害者ならば離れるしか解決策はありません。しかし、単に被害者として怒られ役にあなたは甘んじてはいませんか? 今、あなたは怒られていることを本当にしていましたか? そこで謝る必要ありましたか? と、被害者としてではない、当事者として自身の現状を客観視するという意識改革を行っていかないと根本の問題解決には至らないんです

 結婚をするとき「きっと、この人なら幸せにしてくれるにちがいない」と思い、離婚をするときには「この人と離婚さえすれば幸せになれるにちがいない」。このどちらにも「自分の幸せとは何なのか?」という大切な一点が抜け落ちていると棚橋先生は指摘する。

「誰かに“幸せにしてもらう”と思っていると幸せにしてもらえないと感じたとき、私たちは被害者意識に傾いてしまいがちです。夫やパートナーに依存する前に“自分の本当の幸せってなに?”と、いま身近な関係性の中で、身体的に、精神的に何かしらダメージを受けている人は自問してほしい。

 私たちが描く幸せは人それぞれですが、最低限、安全で安心で人権が守られている環境に自分は生きているのか。生きてよいのだ! と、ぜひ、まず一番に考えていただきたいですね」


棚橋美枝子さん:棚橋美枝子事務所代表。グランエスペランサ代表理事。NPO法人日本結婚教育協会代表理事。看護師、医療カウンセラー、スキンカウンセラーと多彩な経歴を持つ。NPO日本家族問題相談連盟認定夫婦問題カウンセラー。夫婦問題だけでなく、家族問題、親子問題についても幅広く対応。https://tanahashimieko.info/