「ショートプログラムでは1位発進と好調でしたが、フリーではミスが続き最終順位は3位。またもネイサン・チェン選手とのライバル対決で敗れてしまいました。今大会には並々ならぬ思いで臨んでいただけに、羽生選手の悔しさもそうとうなものでしょう」(スポーツ紙記者)

 スウェーデンで開催された世界選手権で激闘の末、なんとか表彰台は死守した羽生結弦。頂点には立てなかったが、早くも“打倒ネイサン”に向けて、気持ちを切り替えているという。

 スポーツライターの梅田香子氏は、羽生が少年のころから負けず嫌いだったことを覚えている。

「羽生選手は2004年の全日本ノービス選手権で優勝しましたが、翌年は日野龍樹選手に敗れ2位。そうとう悔しかったんでしょうね、お姉さんに抱きついてわんわん泣いていましたよ。でもそれをバネにして成長し、2007年の大会でリベンジ。再びチャンピオンに返り咲きました」

 世界選手権が始まる前のインタビューでは「(北京五輪の)枠取りに関しては最大限、貢献したい。僕にとっては今のところそれだけ」と話していたが、すでに新たな目標を見据えて動いている。

「羽生さんは来年の北京五輪に向けてトレーニングの計画を立てています。今シーズンのフリーの曲目『天と地と』は来シーズンも使用を続けるといわれていて、完成度をより高めることを考えているはず」(スケート連盟関係者)

来年も『天と地と』で臨む

 スポーツライターの折山淑美氏も、『天と地と』への羽生の思い入れは強いという。

「自分で選曲し、演技に合わせて自分で編曲をしていますから、特別な思いを持っているでしょう。今シーズンは試合数が少なかった、ということを考えても、フリーに関しては曲目を変えてこないだろうなと思っています」

 コーチの方針も羽生と一致している。

コーチのブライアン・オーサーさんは“五輪のフリーは2年かけて完成度を高める”というのが、キム・ヨナ以来の持論。ですから当然、羽生さんは来年も『天と地と』でいく可能性が高いです」(前出・スケート連盟関係者)

 北京五輪では優勝に加えてもうひとつ大切な目標がある。

「4回転アクセルジャンプです。羽生選手自身が、“競技人生の最終目標”と語っていますからね。幼いころに師事していた都築章一郎コーチから“アクセルは王様のジャンプ”と教わり、自分でも得意だという気持ちはあるでしょう。世界一の舞台で披露したいと考えているはず」(前出・スポーツ紙記者)

 心配なのは、練習環境が完全とはいえないことだ。コロナ禍でホームリンクのあるカナダに渡れないでいる。しかし、フィギュアスケート指導者・評論家の佐野稔さんは羽生がコーチ不在の中で大きく成長したと話す。

「カナダで練習をしていればコーチも仲間もいて、お互いに励まし合って練習できていたと思います。しかしひとりで練習しなければいけない状況に閉じ込められた中でこれだけの結果を残した。誰にも頼れない環境で精神的に成長した部分はあると思います」

 しかし、かつて宇野昌磨がコーチ不在時に成績を大きく落としたように、コーチの存在は必要不可欠でもある。

「ワクチンが行きわたり終息が見えてくればカナダに行く可能性は高い。コーチの存在は精神面でとても大きく頼りになります」(佐野さん)