「孤立」からSOSを出せず犯罪へ
優等生の息子が加害者になることもある。
九州地方で暮らす玲子(仮名・50代)の息子・信也(仮名・20代)は、東京の大学に合格し、都内でひとり暮らしをしていた。
コロナの影響で連休も年末年始も帰省できず、しばらく息子に会うことができず、不安に感じていたころに事件が起きた。警察から電話があり、信也が未成年者とのわいせつ行為で逮捕されたという。
信也の学費や家賃は家族が援助していたが、生活費はアルバイトで稼いでいた。信也は、東京での生活は決して楽ではなかったと話す。
「大学では実家暮らしの友達が多くて、自分はお金がなくて、一緒に遊ぶ余裕がなかったんです。デートのときは、男が奢らなくちゃいけないと思い込んでましたから、それを考えると彼女もできなくて」
それでも、いろいろな出会いがある飲食店でのアルバイトは、信也にとって居場所となっていた。ところがコロナの影響で閉店。収入だけではなく、心の拠り所まで失ってしまった。
大学の授業とアルバイトで多忙な学生生活を送っていた信也だったが、緊急事態宣言によって外出ができなくなり、いつの間にか生活は昼夜逆転し、ネットに依存する生活になっていた。
あるとき、出会い系サイトで知り合った女性のひとりから、家族と喧嘩したので家に泊めてほしいというメッセージが送られてきた。信也は、女性が未成年者であると知りながらも自宅に招き入れた。困っているのだから面倒を見るのだと思い、罪悪感はなかったという。
「とにかくひとりで寂しかった。何のために東京にいるのかわからなくなり、自暴自棄になっていたと思います」
信也は大学を退学し、実家に戻ることに。地元の会社に就職し、真面目に働き始めているが、事件のショックから立ち直れないでいるのはむしろ母親の玲子だった。
「あんなに頑張って入った大学だったのに。生活が大変なら、そう言ってくれれば援助したのに……。親としてはとてもショックです」
困ったときにSOSを出せない男性が犯罪に手を染めるケースは決して少なくない。家族に心配かけまいと問題をひとりで抱え込んだ挙句、取り返しのつかない事態を招いてしまうのだ。家族に本音は話せているだろうか。先が見えない時代だからこそ、家族間のコミュニケーションを見直してみたい。
性犯罪の原因は
セックスレスとは限らない
長引くコロナ禍で、お金は貯まらずストレスはたまる一方、という人も少なくはないのではないだろうか。家庭に充満するストレスは、DVや虐待を生み、家出を余儀なくされる女性や子どもたちが被害に遭うケースも報告されている。
一方で、被害者だけではなく加害者もまた、経済的、精神的に追いつめられた「弱者」かもしれない。
ゆとりが失われた生活の中で、相手を理解するプロセスを省略して性のみを手に入れる性犯罪は増えるであろう。
性犯罪の原因は性的欲求不満と捉えられがちだが、さまざまな事件の背景を見ていくと、そう単純なものではなく、セックスフルな生活を送っている人でも犯罪に手を染める場合がある。根底にあるのは、男性としての社会的劣等感であり、経済力の喪失も動機となりうる。男性優位でなければならないという呪縛は、男性をも蝕んでいる。
阿部恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長。日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。全国の加害者家族からの相談に対応しながら講演や執筆活動を展開。著書『家族という呪い―加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書、2019)、『息子が人を殺しました―加害者家族の真実』(幻冬舎新書、2017)など。