ウイルスだけではない!
動物由来感染症で怖いのはウイルスだけではない。
「薬が効かない薬剤耐性菌の感染症がじわじわと広まっています。今、対策を打たないと薬剤耐性菌で亡くなる人は2050年にはがんを上回ると報告されています。新型コロナのようなスピード感がないため危機感が薄いのですが、このままでは薬剤耐性菌に汚染された世界になってしまいます」
具先生が3月まで勤務していた国立国際医療研究センター病院では、働き盛りの男性が薬剤耐性菌の感染症であっという間に命を落としてしまったケースもあった。
「その方は海外で足にケガをして薬剤耐性菌に感染。帰国後に治療を受けましたが、菌が体中にめぐる菌血症で亡くなりました」
薬剤耐性菌は、土や水の中にもいる。
「ウイルスは人に感染しないと生きていけませんが、菌は栄養さえあれば、どんな環境でも生きられます」
薬剤耐性菌の恐ろしいところは、その名のとおり薬が効かない、つまり治療法がないところだ。
「細菌による感染症の治療は通常、抗生物質を使いますが、薬剤耐性菌には使える薬が少ない。もしくは、ない。そのため治療が極めて困難になります」
菌は分裂のスピードが速い!
またやっかいなことに薬剤耐性菌は、大腸菌や黄色ブドウ球菌など、環境中や体内にいる、ごくありふれた菌からも発生してしまう。なぜか。それらの菌は分裂のスピードが速いからだ。
「人間は“1世代30年”といわれますが、例えば大腸菌は20分に1回分裂する。つまり20分で世代交代するので、中には突然変異で抗生物質にさえも耐性を持つ菌が生まれることもあるのです」
これまで家畜の成長のために当たり前に使われてきた抗生物質だが、近年これを問題視する国が増えた。
「動物の体内で発生した薬剤耐性菌は糞便などから外に出て、環境中に生息します。特に大腸菌の薬剤耐性菌は、日本でも多く見られます」
大腸菌の仲間には、腸管出血性O157など重症化するものも。
「O157にも薬が効かない菌種が発生しました。すべての薬が効かない多剤耐性菌はまだないものの、時間の問題かもしれません」
人間の身体でも同様に、抗生物質の使用によって薬剤耐性菌が発生する危険も。
「不必要な抗生物質の服用で薬剤耐性菌の発生リスクが高まる。風邪に抗生物質は効きません。ひと昔前は万能薬のように扱われ、いまだに処方する医師も少なくない。もし処方されたら本当に必要か質問を。また、患者側からも安易に要求しないでください」