「父の急死」の真相を問う息子の訴え
ジョージさんは1度だけ、父の死後に記者会見を開いた。だが、その後、死の真相を明らかにする積極的行動は少なかった。理由をこう語る。
「私自身が難民申請者という弱い立場です。そこへ、入管から“(父のことで)入管相手に裁判をしなければ、いいように考えてあげる”と言われ、もしかしたら家族が難民認定してもらえるのではないかと受け止めました。まずは家族を守りたかった」
しかし'18年8月、難民認定申請も在留特別許可も認められず、在留資格のない就労禁止の「仮放免」措置に置かれることになる。今、2度目の難民認定申請中だ。ジョージさんはこう訴える。
「納得できないのは、入管から父の病状について一切の説明がないことです。入管は、父が“病院に連れていってほしい”と言ったことすらも認めていません。私は監視カメラ映像の公開も入管に求めたけど、断られました」
今年5月18日。難民認定申請中でも本国への送還を可能にするという、国際ルールに反した改正法案は廃案となった。だがそれは、単に現行法が残るというだけの話であり、今後もウィシュマさんやニクラスさんの悲劇を生み出す土壌はそのまま残るのだ。
実は2人のケースは特殊ではない。収容施設では、受診するには申請書を書いてから平均で2週間弱もかかる。これだけでも異常だが、吐血や骨折の放置も往々にしてある。医療放置を解消するには、まずはウィシュマさんの映像公開が必要だ。
取材・文/樫田秀樹 フリージャーナリスト。難民・入管問題をはじめ、国内外の社会問題、環境問題を精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)が第58回日本ジャーナリスト会議賞を受賞