母娘でありながら共同経営者という関係
店舗の入り口で物音がして、千津さんが手を上げた。
「あ、来た来た。ハロー!」
千津さんが手を振るほうに目をやると、後から駆けつけた母の律枝さん(63)がニッコリ微笑んでお辞儀をしていた。
「母ちゃん、紺のワンピースで来たの?」
「このほうがバッグが映えるかと思って」
実はこの2人、母娘でありながら共同経営者という関係でもある。会社設立当初、ウガンダに住んでいた娘に頼まれ、静岡で暮らす専業主婦だった母の律枝さんが一念発起。ウガンダと日本、母娘の二人三脚でこれまでやってきた。
「千津は子どものころから本当に天真爛漫で、悪く言えば大雑把(笑)。小さいころからずっとそう。おもちゃのお片づけだって、隣の部屋に押し込んで終わりですし、ちょっと目を離したすきに雨上がりの公園で滑り台から水たまりに頭から滑ってドロドロになって大笑いしていたことも」
と律枝さんが言うと、隣で「あんまり覚えてないなあ」と笑う千津さん。
「私は慎重に段取りをしないと落ち着かないんですけど、千津はいつも何をするか想像できないんです。私が専業主婦から会社を手伝うことになったきっかけも、ウガンダから突然ラインで……(笑)。でも、そのときは本当にうれしかった」
お互いの性格を生かしてカバーし合い、事業を順調に展開してきた。だが、昨年4月、初めての緊急事態宣言で大きな打撃を受ける。代官山の人通りはパッタリと途絶え、店は2か月の休業。予定していた百貨店でのポップアップストアもすべてキャンセルになったと千津さんは言う。
「でも、なんとかするしかない。在庫をすべてオンラインストアに集約して、急きょ、商品のラインナップを増やしました」
当初は数種類のバッグのみ展開していたオンラインストアに、ポーチやアクセサリー、インテリアアイテムなどを次々に公開。毎週金曜日には必ず新しい商品を追加した。今まで大切にしてきた心を込めた接客の機会をなくさないよう、インスタグラムでのライブ配信も始めた。
その効果は高く、新たな顧客も獲得できた。オンラインの売り上げは倍増している。
「今はなかなかウガンダに行けませんが、そんなに問題はありません。現地での採用は任せていますし、何かトラブルがあっても、彼女たちの間で解決できることは任せたほうがいいと思うんです。彼女たちにとって私はやっぱり外国人だし、出るべきところと出ないところはわきまえるようにしています」