ウガンダで学んだ「怒らない」姿勢
3人でスタートしたウガンダの工房スタッフは、今では21人になった。そのうち女性は20人。8割がシングルマザーだ。彼女たちの収入は、ウガンダの平均月収の2〜3倍。医療費の補助や無利子のローン、ランチの提供など、生活を支える仕組みも充実させた。
出会ったときにうつむきぎみだったグレースさんをはじめ、スタッフ全員の生活、内面は、みるみる改善されていった。
「日本からオーダーが増えると、ウガンダのみんなも、自分のやっていることに意味がある、自分は人に必要とされていると感じられるようになります。日本のお客様からも、この商品を身につけていると、元気になれる、新しいことに動き出せたという声をいただきます。相互に影響を与え合っている。それを聞いて、私自身も、人に必要とされていると感じられるんです」
昨年からウガンダとの行き来が制限されるようになり、千津さんの目は日本の女性にも向けられた。群馬県で女性の自立や困窮家庭の支援をしている NPO法人と提携し、アフリカンプリントを使ったマスクの製作を始めたのだ。
生産者と消費者、ウガンダと日本、雇用主とスタッフ。千津さんは、どんな関係性でも対等に、みんなが自分の人生を生きられるように応援する。母、そして、千津さん自身もその中に含まれる。
『RICCI EVERYDAY』のアフリカンプリントのバッグに出会った女性たちの人生は、より自分らしい人生へと動き始めている。
律枝さんには最近うれしいステップアップがあった。
「実は、パソコン作業をサポートしてくれていたいちばん下の娘が、就職したからもうできないって言うんです。『じゃあどうするの?』って聞いたら、『お母さんがやるしかないでしょ。ほら、教えるからノートにメモして』と言われて練習中です。最近は少しできるようになって、パソコンを開くのが楽しみになりました」
今はスピードアップを目指して練習中。やると決めたら突き進むのが律枝さんだ。
「千津は、私が大失敗しても絶対に怒らない。どうしたらそういう失敗を防ぐことができるかを一緒に考える。スタッフにも私にもそう接してくれる姿、娘ながら尊敬します」
千津さんが周囲の人たちから信頼され、頼られるそのおおらかさの多くはウガンダで学んだことだ。当初は、現地の人たちに対しても怒ってばかりだったと千津さんは言う。
「怒っているのは私だけ。みんなあっけらかんとしていて、失敗したらまたやるしかないよねって感じなんです。次に同じ失敗が起こらないようにする方法を淡々と話し合えば、次はうまくいくってウガンダで教えてもらった。誰が何をしたか責任の所在を突き止めることは問題の本質じゃないんですよね。だって、誰かが責任を取っても、状況は何も変わらないじゃないですか」
千津さんは、まだまだ先を見ている。
「作り手も、消費者も、その商品を作ること、使うことで誇りを持てる。商品を通じて互いに支え合い、応援し合えるような、つながっている感じを持てる。そんな仕組みを社会全体に作っていきたい。
まだまだ道半ばです。考えることをやめたらそこで衰退。だから、これからもずっと考え続けます」
《取材・文/太田美由紀》
大阪府生まれ。フリーライター、編集者。育児、教育、福祉、医療など「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。2017年保育士免許取得。Web版フォーブス ジャパンにて教育コラム連載中。著書『新しい時代のカタチ─地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)