日本有数の景勝地で、命を絶とうとしている人々に声をかけ続けて17年。ひたすら話を聞き、徹底して寄り添う茂幸雄さんは、自身の活動を「自殺防止ではなく人命救助」と言い切ってはばからない。生きていく勇気を取り戻すには、自殺を止めるだけでは足りないから。本当は助けてほしい──、そう切望する心の叫びを知っているから。
自殺の名所「東尋坊」
「ここがいちばんの飛び込み場所です」
平然とそう語る案内人に指さされた方向は、ゴツゴツとした岩肌がV字形に開けていた。そこから先は、ほとんど垂直に切り立った岸壁が両側に連なり、日本海へ向かって延びている。
ここは海抜25メートル。ビルの高さでいうと7〜8階に相当する。両腕を伸ばし、筆者は一眼レフを落とさないよう気をつけながら撮影した。真下の海面に恐る恐る目をやると、黄色いサンダルが海草に乗って揺れているのが小さく見え、打ち寄せられる波音が聞こえてきた。
「そこから飛び込むんです。若い人は脚力があるから海に落ちて助かることもありますが、高齢者は手前の岩に激突してしまいます」
と案内人に言われ、その場面を想像すると、足がすくむような思いにとらわれた。
近くにいた観光客の若者たちも、この断崖絶壁を前におののいていた。
「マジで怖い。ヤバイよ」
6月1日午後4時半。
目の前に広がる日本海は凪いでいた。西日に照らされた水面はまばゆいばかりに輝き、間もなく夕暮れ時を迎えようとしていた。
ここは福井県坂井市三国町にある「東尋坊」と呼ばれる景勝地だ。
この荒々しい岩肌は、六角形の柱を形成する「柱状節理」と呼ばれる現象でできた地形で、空に向かって突き出ている。国の天然記念物にも指定され、「世界の3大柱状節理」と評されている。太陽が沈む直前、緑色の光が瞬く「グリーンフラッシュ」と呼ばれる自然現象が年に何回か見られ、「日本の夕陽百選」にも指定されている。岩場から徒歩数分の商店街には、土産物店や海の幸が自慢の飲食店が軒を連ね、人通りでにぎわっている。